コロナウイルス、一旦落ち着いてきたかと思いきや、再度感染者数が増えてきています。オミクロン株になって、重症化する割合は減ったようですが、後遺症に悩む方が多くいるとも聞きます。そろそろ終わりにして欲しいと思いつつも、正しい情報を得て、正しく恐れることが大切だと思う日々です。
今日は脂肪幹細胞を用いた治療が、コロナウイルス感染に対してどのように有効であるか、について論文に書かれていることを解説したいと思います。
何はともあれ、感染で最も重要なのは「炎症」のコントロールです。そして脂肪幹細胞は主に3つの理由から、コロナ感染に対して有効と言われています。
まずはウイルス感染と発症の仕組みについて、おさらいしましょう。
ウイルスに感染すると、体は反応して、侵入者あり!と警報を鳴らします。それが伝言ゲームのように全身に広がって、身体中で「緊急事態、緊急事態!」と騒がしくなります。この警報をサイトカインと呼びます。
コロナに感染してサイトカイン警報が鳴り出すと、免疫細胞は働き出します。サイトカインにも様々な種類があり、それぞれ免疫細胞に対する役割が少し異なります。代表的なものにIL(インターロイキン), TNF(腫瘍壊死因子), IFN(インターフェロン)などがありますが、それぞれ音の違った警報といったところでしょうか。
このサイトカイン。体を守るために必要ではありますが、発令が強すぎると、ひどい全身の症状が出ます。大袈裟な状態をサイトカインストームと呼びますが、まさにサイトカイン警報が嵐(ストーム)のように吹き荒れている状態です。ここまでの状態を急性期と呼びます。
さらに肺炎などが悪化すると、びまん性肺損傷と呼ばれる状態になります。体は炎症で焼け野原になった部分をなんとか治そうとしますが、元どおりにすることは難しく、代わりに繊維芽細胞がパテのようにペタペタと間を埋めていきます。これを繊維化とよび、完了すると焼け野原ではなくなるのですが、臓器としての働きは悪くなってしまいます。慢性期の症状です。
さて本題に戻りまして、脂肪幹細胞有効な3つの理由それぞれについてです。
まず脂肪幹細胞は、抗炎症作用が強い。IL 1α, IL 6, IL 12, TNFα, IFNγなどの様々なサイトカインが抑制されます。前回のコラム「脂肪幹細胞とPEG」でも触れましたが、細胞から分泌される液が主な役割を担っています。サイトカインストームも抑制すると研究報告されています。
また、脂肪幹細胞は免疫調整能があります。免疫細胞の中でも、サイトカインの警報を受けて「とっさに」行動を起こしてしまう奴がいます。そいつらはウイルスに対して働くわけではなく、動いてしまうことで症状が悪化してしまうだけのものなので、落ち着かせたいわけです。逆にサイトカイン警報では目が覚めずに、本当は働いて欲しい免疫細胞が働かない、ということもあります。それらを修正するのにも脂肪幹細胞は役立ちます。ウイルスだけでなく細菌や真菌の分子シグナルを検出し、自然免疫センサーであるtoll-like receptor(TLR)を誘導することで、有効な免疫細胞を働かせることができます。
さらに、脂肪幹細胞は血管新生促進や抗繊維化パラクライン効果があるので、慢性期になる肺組織の再生と繊維化に抵抗する役割があります。
ちなみに重症患者さんを対象に静脈内への脂肪幹細胞の投与が行われ、臨床効果と安全性は確認されています。約2年前の当院 再生医療のコラム「重症コロナ肺炎に脂肪幹細胞が有効」に詳しく紹介しています。ご興味ある方はぜひご一読ください。
というわけで脂肪幹細胞は、抗炎症作用や免疫調整能、抗繊維化作用があるため、急性期から慢性期まで広くコロナウイルス感染症に対して期待されているんですね。
ではまた!
(加藤基)
参考資料
炎症誘発性サイトカインの概要 Thermo Fisher Scientific HP