こんにちは、アヴェニューセルクリニック院長の井上啓太(いのうえけいた)です。
今回は、当院で膝関節の治療を担当している松﨑 時夫(まつざきときお)先生と再生医療について対談したいと思います。
テーマは、膝関節の再生医療と肌の再生医療についてです。
井上医師
松﨑先生は、整形外科の一般整形外科で経験をつまれていて、関節の治療やスポーツの怪我などの治療を主に臨床では行っていました。
出身の神戸大学では、スポーツ整形を担当されていて、切れた靱帯や半月板を縫ったり切除したり、再建という治療をしていました。
その後、日本の大学院やアメリカでも研究を続けていました。
臨床でも研究でも関節軟骨に関して、研究をしてきた先生です。
松﨑医師
切れた靱帯を新たに作るというのは、自分の体の中にある使っていない腱などを採り出して、靱帯を作って移植するという方法になります。
治療をし、靱帯を再建してあげることでスポーツに復帰する事ができます。
ただ、スポーツ復帰までが半年から9ヶ月くらいかかってしまうので、リハビリの時間がアスリートにとっては長いというデメリットがあります。
野球の肘でしたら損傷した靭帯を人工の靭帯で置き換える手術のこと。
通称「トミー・ジョン手術」と呼ばれる再建術を行います。
最近だと大谷翔平選手も行った手術です。
井上医師
先生が神戸大学にいた時には、再生医療は既にありましたか?
松﨑医師
私が大学院の時、ちょうど2013年、2012年頃にPRP治療(多血小板血漿の治療)が使われ始めたような時代でした。
ヤンキースに移籍した田中将大選手がPRPを打っていたので、野球選手に広まりました。
井上医師
PRPを膝の変形性膝関節症に使うというのは、ありふれた治療でしたが先生は実際、患者さんにPRP使ったりなさっていましたか?
松﨑医師
その頃は、加齢・老化の研究を主に行っていて、関節の痛みの多くは変形性関節症と言って加齢によって起こる病気に対しての治療の研究が多かったと思います。
井上医師
その研究によって発見されたことというのは、どういうことなんですか?
松﨑医師
関節の軟骨自体がやはり加齢によってドンドン減少していくので、そういった意味で“加齢”というのが一つの大きな興味の対象としてありました。
それに伴い老化というのに関わる遺伝子というのが分かりまして、特に老化関連遺伝子としてサーチュイン遺伝子や空腹時に活性化される遺伝子のオートファジーが関節軟骨に対してどの様な働きをするのか研究をしていました。
井上医師
サーチュイン遺伝子は他の血管とか筋肉の老化の影響があると言われていて、発見もそこで最初に見つかったと思いますが、やはり軟骨でも関係しているんですね。
松﨑医師
7つサーチュインがあるんですけど、Sirt1(サートワン)というサーチュインが一番軟骨でもよく発見されていました。
Sirt1が加齢と共にどんどん減少する事で軟骨がすり減ったりするのではないかと、マウスを使った研究をして証明しました。
井上医師
NMNとサーチュインの関係というのは関節軟骨に関してはどうなんですか。
松﨑医師
もちろんNMNを投与することによってサーチュインというのは活性化されて、軟骨内でも効果の研究はされています。
元々サーチュインを活性化させるものというのも、NMN以外にもあります。
ウコンのポリフェノール成分のクルクミンと言われるものであったりとか、脳梗塞の予防で使われる血液をサラサラにするシロスタゾールや赤ワインとかに含まれるレスベラトロールがサーチュイン遺伝子を活性化されるといわれています。
しかし、私の考えだとレスベラトロールやNMNだけでは、関節軟骨を再生させるというのは少し不十分ではないかなと思います。
井上医師
いわゆるNMNとかレスベラトロールのサプリメントがありますけど
その様なものを飲むだけではなく、細胞由来の何かを入れた方が良いのではないかという考えですか?
松﨑医師
サプリメントを飲む事で、ある程度老化自体を遅らせるかもしれないですけど
軟骨に関して言うとサプリメントを飲んでも、それが軟骨に良いように作用するか?というと難しいです。
血液中に成分が溶けますが、全部軟骨に成分が行くわけではありません。
グルコサミンのサプリメントなども一緒の考えですね。
サプリメントだけでは、関節軟骨の老化による減少を防ぐ事は難しいと思っています。
井上医師
私の考えでは、関節軟骨が減ってくる最大の要因というのは幹細胞が減ることではないかなと思っていますが、先生はどの様にお考えですか?
松﨑医師
関節の軟骨の下には骨があるんですけど、一番上には表層細胞と言われる細胞があって
軟骨の表面を保護するような分子を出していたり、関節の潤滑に関わる細胞があります。
あとは、その軟骨細胞というのが関節の中にもいます。
関節の中は血流が乏しいところなので、その軟骨細胞が老化によって減ってしまうと、どこからも補充される事はありません。
そのため、軟骨を傷めてしまうと滑膜(かつまく)という部分に炎症が起こり、さらに軟骨に悪循環に陥ってしまいます。
幹細胞治療をする事で、その炎症を沈めて軟骨を守る効果が期待できます。
[後編に続きます。]