こんにちは、アヴェニューセルクリニック院長の井上啓太(いのうえけいた)です。
今回は東大の赤門の前からスタートいたします。
なぜかというと今回は、TOPs細胞®の製造元であるCPC株式会社の学術顧問であり、東京大学整形外科准教授の齋藤琢(さいとうたく)先生と対談をするため東大に来ました。
実は齋藤先生は、私の大学の同級生でもあります。
東大の赤門は加賀藩の上屋敷の跡地にあった赤門で、文政10年(1827年)に建立されたものです。
明治30年くらいから本郷の地域一帯が医科大学として整備されて、その後に東大に移設されました。
残念ながら現在は、耐震調査ということで扉がしまって通れない様になっていますので、
脇の方から入って行き、齋藤先生に会いに行きたいと思います。
こちらは私達が学生の頃来ていた医学部本館というところです。
※現在は医学部2号館
教務課があり、課題やレポートを提出していました。
解剖学教室には、夏目漱石さんの脳が中に標本として保管されています。
齋藤先生がいる“臨床研究棟”へ来ました。
新しい建物で私が学生で研究していたころは無かったです。
東大の面白いのは、古い建物と新しい建物が混在しているところです。私がとても好きなところでもあります。
古い建物は関東大震災の頃からあり、柱が太く石造りで天井も低くて壁も厚い作りなのですが、齋藤先生が研究をされている臨床研究棟は、新しい建物で近代的な作りになっています。
井上医師
本日はよろしくお願いします。 今日最初にお話しいただくのは、TOPs細胞®に欠かせない培地(ばいち)についてです。
※培地というのは細胞を育てるときに使う培養液のことで、植物を育てる際の土の様な役割
二つ目はTOPs細胞®の特徴の一つである不織布(ふしょくふ)です。
通常、脂肪由来幹細胞は脂肪吸引から採った大量の脂肪を使って培養することが多いですが、TOPs細胞®の特徴として少量の脂肪から間葉系幹細胞を作ることができてそのために欠かせないものが不織布です。
TOPs細胞®の詳しい内容はこちらのブログをご覧ください。
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最後三つ目としては、臨床で間葉系幹細胞を使った時にどの様なメカニズムで効果を発するか?という事を聞いていきたいと思います。
齋藤先生は、整形外科の先生なので変形性関節症にフォーカスして教えていただきたいと思います。
まずは、簡単な自己紹介をお願いします。
齋藤医師
初めまして、医師の齋藤琢と申します。
私は井上先生と同級生で、平成10年(1998年)に東大医学部を卒業してそのまま整形外科に入局しました。
数年間臨床医として働いていて、大学院に進学したのを機に基礎研究にのめり込みました。
それからは、軟骨の分化や変形性関節症の分子メカニズムといったことを研究して参りました。
「いかに細胞を作るか?」や「なぜ細胞が関節を良くするのか?」など基礎と臨床の両面から研究することにも取り組んでおります。
井上医師
まず最初に培地について伺います。
培地というのは、細胞を育てる為にアミノ酸やミネラルが入っています。
また幹細胞治療には欠かせない、凄く大事な成分である成長因子も入っています。
その様な成分を「どういう配分で何を入れるか?」を研究していくことで育てる間葉系幹細胞の質を上げたり安定して細胞を増やしていけると思います。
そのために必要な培地の特性をどのように改良を行ったか説明していただけますか?
齋藤医師
培地を作るのは本当に難しくて、専門に研究している先生もたくさんいます。
一つ一つの成分で言い出すと、一つの研究領域でカバーできるものではないぐらいです。
そのためまず我々は、培地と試薬に精通している関東化学株式会社さんにご助力いただきまして共同研究を進めてまいりました。
関東化学株式会社さんは試薬のプロなので、細胞を育てるときにどの成分がどの様な影響を及ぼすかはある程度知っていらっしゃるわけですが、必ずしも人の脂肪由来の間葉系幹細胞で経験が多いわけではないので、関東化学株式会社さんと様々なトライアルを重ねながら改良をしてきました。
現在は、育ててきた細胞がどの遺伝子を発現しているのかを確認しながら、上流を制御するシグナルを探索することでより良い細胞を開発しようと取り組んでいます。
井上医師
上流のシグナルというのは簡単に言うとどういうことでしょうか?
齋藤医師
少し前までは、関節をより良くするために幹細胞に炎症を抑えるシグナルを出すように誘導してから関節に投与すると良いのではないか?という考えがありました。
我々が行った別の基礎研究で幹細胞を関節に入れてしまうと数日間で全く違う形に変わってしまい、もうほとんど姿をあまり留めないという事がわかりました。
そのため変化する力を残すという事や関節の中で良い仕事をするように無理に誘導しなくても「活きの良い状態で投与してあげること」が一番いいのではないかと考えました。
その様に考えると、幹細胞が活きの良い状態を保つために大事なシグナルを高めてあげると良いではないか?と考えています。
井上医師
今までは関節を治そうと思ったら、関節っぽい細胞(軟骨)を作って移植するというアプローチが取られてきました。
しかしその必要は無くて、幹細胞が何にでもなる状態を残したまま移植した方が上手く行くのではという事ですか?
齋藤医師
そうですね、そのように考えてます。
事前に幹細胞に手を加えたとしても、体内に入ると細胞はまわりの環境に大きく影響されてしまうので、ほとんど事前に手を加えることは意味が無いと考えています。
井上医師
そのためには、間葉系幹細胞の多能性を維持したまま活きの良い・質の良い間葉系幹細胞をとにかく作っていくということが大切だということになりますよね。
※多能性とはどの細胞にでもなれる能力
齋藤医師
関節に入った幹細胞は、関節を包み込む滑膜(かつまく)の内側に張り付きます。
活きが良い程、滑膜に張り付くということはある程度分かっています。
※画像のオレンジ色が滑膜
また、幹細胞の活きが良いと滑膜に長く留まるということも予想されますので、幹細胞の活きが良いということが治療効果を発揮する全てだと思います。
井上医師
活きが良くて多能性を維持している幹細胞と滑膜っぽくなっている幹細胞の両方あると思いますが、滑膜っぽくなってしまっている幹細胞の用途としては一見すると良さそうに見えますが生着(せいちゃく)があまり良くないということですか?
※生着とは他の臓器や組織に移植された細胞が、新しい場所で機能し始めること
齋藤医師
厳密に言うと「滑膜っぽく誘導する」という方法が今のところ無いので、基礎検討は行った事がありません。
恐らく幹細胞に手を加えて分化誘導していくと、生着に関しては能力が落ちるということがわかっています。
そのため、軟骨や滑膜など具体的な組織には近づけない方が治療成績が良いだろうとは予想しています。
井上医師
私達は患者様から脂肪をお預かりして、そこから勢いよく幹細胞を増やしますが、その状態が移植には適していると考えてもよろしいですか?
齋藤医師
その“採れたての状態”をできるだけ維持したまま数を増やす、そこが大事だと思います。
次回は不織布についての対談をお送りしていきます。
こちらの内容は動画でもご覧いただけます。