これまで変形性膝関節症の症状や治療についてお話をしてきました。
膝の痛みを抱えて受診される患者様は、さまざまな治療法を試しても痛みの改善に至らず、繰り返している方が大半です。完治をする決定的な治療法が確立されていないのが現実です。
そのなかで、近年、新たな治療法が生まれました。それが再生医療です。保存療法か手術かの2択ではなく、その間をつなぐ治療法として注目されています。
今回は、変形性膝関節症における再生医療について松﨑医師が解説します。
変形性膝関節症に対応する再生医療とは
再生医療は、これまで治りにくいとされていた病気に対し、自らの細胞を培養して治療に用いる方法です。私たちの体にある血液や間葉系幹細胞が原料になるので、体への負担が少なく、拒絶反応もないまま症状の改善が期待できるのです。
変形性膝関節症では、主にPRP療法(多血小板血漿療法)と幹細胞治療が行われています。それぞれについて簡単に説明しましょう。
自分の血液を利用するPRP療法
スポーツ選手のケガに対してPRP療法を用いたというニュースを耳にする機会が増えました。このPRP療法とは、患者様の血液を遠心分離機にかけ、血小板成分を濃縮し、抽出して得られた多血小板血漿を注射で投与する治療法です。
血小板には、傷ができたときに治す働きがあり、組織の修復を促す成長因子を含んでいるため、炎症を抑えることで膝関節内の痛みを和らげると考えられています。
採血をして遠心分離機にかけ、血小板を抽出する時間は30分程度なので、当日に施術が可能です。
さまざまな細胞に変化する力を生かした幹細胞治療
私たちの体をつくっているのは細胞です。その細胞のなかには決まった役割を持たず、さまざまな細胞に変化するものがあります。その細胞を「幹細胞」と言います。条件次第で神経、筋肉、脂肪、骨などに分化することができ、骨髄内や脂肪内に存在します。
脂肪は皮膚表面のすぐ下に存在するので採取しやすいため、脂肪由来の幹細胞が再生医療の主流となっています。
採取した脂肪から幹細胞を分離して培養し、注射で患部に投与します。損傷部位の周辺組織にある細胞に働きかけて骨膜や骨内の炎症を抑え、組織の修復を促します。
当クリニックでも、脂肪由来の幹細胞を用いた治療を行っています。
再生医療のメリット・デメリット
これまで変形性膝関節症の治療といえば、体重管理やヒアルロン酸注入などの痛みを軽減する保存療法がメインでした。保存療法の効果を十分に得られなかった方は、手術しか選択肢がなかったのですが、切らずに治療ができると注目されるようになったのが再生医療です。
従来の治療法との大きな違いは、自分の細胞にある自然治癒力を損傷部位へ直接投与でき、長期間にわたって維持ができるという点です。
メリットのほうが大きいのですが、どんな治療法においてもリスクやデメリットはつきものです。当クリニックで行っている脂肪由来幹細胞での治療を例に、メリット、デメリットについてお話しします。
手術より体への負担が少ない
幹細胞治療は、注射で投与するので患部を切ることはありません。その前に、必要な脂肪組織を採取するのですが、当クリニックではおへその近くを3㎜ほど切開し、特殊な生検針を使用して行います。採取する脂肪の量は0.2g程度と少量。切開する時は局所麻酔をしますので、痛みはほぼありません。縫合が不要で、傷痕はほとんど目立たなくなります。
トータルの治療期間が短い
幹細胞治療は入院の必要はありませんが、脂肪採取後に培養期間が約4週間かかります。しかし、細胞投与後は普通の生活が送れるので、会社を長期休む必要がありません。投与の翌日に患部の腫れや痛みが出る患者様もいらっしゃいますが、特に行動制限もありません。
人工関節の手術は、2週間程度の入院と数カ月のリハビリが必要になるため、仕事をしている方や高齢者は決断しにくいという声も耳にします。すぐに社会復帰したい方にとっては、再生医療はメリットが大きいといえるでしょう。
もちろん、幹細胞治療を行っても定期的な検診は必要ですし、再発防止のために継続してリハビリも行っていただきます。
自由診療のためコストがかかる
手術は保険診療なので、人工関節なら3割負担で60~80万円。高額医療費制度を使えば、一定額以上は支払いせずにすみます。
再生医療の大半は保険診療ではありません。幹細胞治療の場合、60~350万円といわれています。幅が大きく開いていますが、100~150万円が相場のようです。クリニックによって治療費は異なるため、初回のカウンセリングで価格は必ず聞いておいたほうがいいですね。
自己負担になるため、費用の面で決断できないという方もいらっしゃいます。まずは、クリニックで相談をしてみましょう。
ちなみに、当クリニックのカウンセリングは無料で行っております。また、クリニック内で幹細胞の培養を行い、管理しているのでコストを抑えることが可能です。費用面だけでなく、フレッシュな状態の幹細胞を投与できるのが利点です。
一時的な改善ではなく持続が期待できる
保存療法のひとつ、ヒアルロン酸注入は一時的に痛みを緩和するものなので、2~3週間で痛みがぶり返してきます。繰り返し投与していると効果を感じにくくなりますし、神経損傷などのリスクも生じます。初期には有効な手段ですが、持続性はのぞめません。
幹細胞治療は患部に直接投与するので、15分ほどで傷の修復をし始めます。修復には3カ月ほどかかりますが、痛みは2~3日でひいてきます。損傷の度合いにもよりますが、長期的な効果の持続と症状の進行を遅らせることが期待できます。
保存療法では痛みの改善が見られなかったけれど、手術は入院期間や体への負担を考えると躊躇してしまう。持病を抱えている、体力が低下してきている高齢者だけでなく、仕事をしている中高年にとっても再生医療は負担が少なく、痛みを軽減できる有効な手段なのです。ひとつの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。