立ち上がるのがつらい、歩きはじめに脚のつけ根やお尻に違和感がある。それは
「変形性股関節症」の初期症状かもしれません。放っておくと症状が進行し、座っていても痛い、歩くのがつらくて外出もままならない状態に。
早期発見で治療ができればいいのですが、一時的に痛みが軽くなることもあり病院に行くのが遅れることもあります。
日常動作に欠かせない股関節。痛みを軽減し、少しでも進行を遅らせるための治療法について松﨑医師にうかがいました。
初期段階では症状をやわらげる保存療法
痛みをやわらげることで関節への負担を減らし、症状が進行するのを防ぎます。保存療法は保険適用となります。
筋力をつける運動療法
前回お話しをした予防法と同じで、股関節への負担を減らすために筋力をつけることが大切です。股関節まわりの筋肉を鍛える運動や、可動域を広げるためのストレッチなどを指導します。自己流ではかえって悪化してしまうこともあるので、必ず医師や理学療法士の指導を受けて行いましょう。
同時に食事や生活習慣を見直し、体重が増えないようにしてください。
痛みをおさえる薬物療法
痛みがあると行動に制限が出てしまいますし、痛みがある部位をかばうように歩くため骨の変形を促してしまいます。骨のダメージを食い止める薬は残念ながらありませんので、痛みをおさえる内服薬や注射、湿布などを処方し、患者様の負担を減らします。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)やアセトアミノフェン、鎮痛薬を主に用います。
ちなみに変形性膝関節症は、ヒアルロン酸注射で炎症を抑える方法を用いることがありますが、変形性股関節症ではこの治療法は認められていません。
血液の流れをよくする物理療法
温熱療法や電気刺激療法で股関節まわりの血行を促し、筋肉の柔軟性を高めて痛みを和らげる治療法です。
股関節まわりを温めてから運動をするとより効果を発揮すると言われています。
症状が進行した場合は手術療法を検討
生活習慣の見直し、運動療法、薬物療法によって痛みが軽減されない、症状が進行し日常生活に支障がある場合は、手術療法を検討します。
手術療法には大きく分けて関節を温存する「骨切り術」と、関節を人工のものに置き換える「人工関節置換術」があります。骨切り術は自分の関節を温存することができる一方で、治療期間が長いこと、将来、症状が進行して人工関節置換術をする可能性が高いことなどデメリットがあります。
軟骨がなくなった末期症状や60歳以上に適応する人工関節置換術
症状がかなり進行している場合は人工関節置換術を検討します。股関節を人工関節に置き換える手術で、全身麻酔で行います。入院は3週間ほど、日常生活が送れるまでには3カ月から6カ月はかかります。
切開方法は、後、前、側面と3方向からのアプローチがあり、どこから切開するかによって術後のケアが異なります。
人工関節にも寿命があり、個人差はありますが15~20年と言われています。再手術を避けるために60歳以上のシニアに勧められる術式ですが、寿命が延びている現代では慎重に検討しなければなりません。
人工関節置換術については、次回より詳しくお話しします。
第3の選択肢として登場した再生医療
変形性股関節症における保険診療は選択肢が限られており、痛みを緩和する鎮痛剤に関しては効果に限度があります。運動療法に関しても、リハビリを行える病院やクリニックが少ないため、必要としている患者様を十分にケアできる状況ではないのが現実です。
保存療法で十分に効果が得られなかった場合、以前なら手術をすぐに検討しましたが、医療の進歩により再生医療を選択することができるようになりました。
手術よりも体への負担が少なく、治療期間も短いというメリットがあります。年齢や骨の変形度合いに関わらず治療の対象となりますので、ぜひご相談ください。
血液を利用するPRP療法
血液を遠心分離機にかけ、血小板成分を濃縮して得られた多血小板血漿を投与する方法です。血小板には組織の修復を促す成長因子を含んでいるため、注入することでダメージを受けた股関節の炎症を抑えると考えられています。
自分の血液を用いるので、当日に施術が可能です。採血と注入だけなので、治療痕がほとんど残らず、短時間で済むので患者様への負担も少なくなります。
脂肪の中にある幹細胞を利用する幹細胞治療
さまざまな細部に変化する「幹細胞」の特性をいかした治療法です。投与することで、組織の修復を促し、炎症を抑える効果が期待できます。
幹細胞は骨髄や脂肪に存在しています。当クリニックでは、採取しやすい脂肪由来の幹細胞を用いて治療を行っています。おへその近くを2~3㎜切開し、特殊な針を使って採取するので傷跡はほとんど目立ちません。採取する脂肪の量も0.2g程度で少量です。
細胞を培養するのに約1カ月かかりますが、投与する日程も調整できるので日常生活を送りながら治療を行うことができます。
投与したら治療は終わりではなく、リハビリが必要ですし、体重管理や運動の継続も大切です。
どの治療法を選択するかは患者様ですが、患者様の症状やニーズに応じて適切な治療計画を提示するのが医師の役目です。診察時にはどんな些細なことでも構いませんので、気がかりなこと、不安なことを医師に伝えてください。お互い、しっかりとコミュニケーションをとり、納得できる治療法を選択していきましょう。