何らかの原因で股関節の軟骨が徐々にすり減り、日常動作で脚のつけ根やお尻に痛みが生じてくる「変形性股関節症」。症状が進行すると歩くのもままならなくなります。
日常生活を送るなかで、股関節は常に負担がかかっています。少しでもその負担を減らすことが病気の予防となり、進行を遅らせることにつながるのです。
今回は、変形性股関節症の予防、再発防止のために心がけたいことを松﨑医師にうかがいました。
自己流は症状悪化のもと。専門医と相談し病気への理解を深める
今の時代、インターネットで「変形性股関節症」と検索するとさまざまな情報を得ることができます。そうして、ここにたどり着いた方もいるでしょう。
しかし、病気の進行度合いは人それぞれですから、自己判断をしないことが大切です。脚のつけ根やお尻に違和感を覚えたら、まずは整形外科を受診すること。レントゲン検査で骨の変形度合いなどを確認してもらいましょう。変形はどの程度なのか、それに対する治療法、日常生活において気をつける点などを医師からしっかりと説明を受けてください。気がかりなことがあればそのままにせず、ぜひ質問をしてください。
もちろん医師に任せきりではなく、自分の病気を理解したうえで治療やリハビリを受けてほしいですね。予防や再発防止策も、なぜ行うのかがわかっていると行動に移しやすくなります。
変形性股関節症を予防するために取り組みたいこと
股関節は体を支え、日常動作に欠かせない部位です。ですから、日々、大きな負担がかかっています。炎症を起こさないためには、その負担を少しでも減らすことが大切です。
変形性膝関節症のテーマでもお話をしましたが、病気予防や悪化防止策には体重管理や筋力維持などのセルフマネジメントが欠かせません。
自分の病状を把握したうえで、次のような予防策を取り入れてください。
適切な体重を維持する
体重が増えすぎると体を支える股関節に負荷がかかり、軟骨へのストレスが大きくなって症状が進行するリスクが高まります。
肥満にならないように体重管理をすることが大切です。BMI値(体格指数)が25を超えると肥満に該当します。BMIの計算方法は、体重kg÷身長m÷身長mです。
適度な運動とバランスのとれた食事で肥満にならないよう注意してください。
運動をして筋力をつける
痛みがあるからといって、ずっと安静にしていると筋力が衰えて関節に負担がかかってしまいます。医師や理学療法士の指導のもと定期的に運動し、筋肉をつけることが悪化を防ぐことにつながります。
今は症状がないという人も、股関節を守るために適度な運動を習慣にしましょう。ウォーキングや水泳、サイクリングなど股関節に負担の少ない運動がおすすめです。お尻や太ももの筋肉を鍛えるトレーニングやストレッチを取り入れるのもいいでしょう。ただし、痛みがある場合は無理をしないことです。
骨がもろくならないよう食事に気をつける
骨の密度が低下し、もろくなる骨粗しょう症も変形性股関節症の原因と言われています。特に女性の場合は、閉経後に女性ホルモンの分泌が減少することから骨粗しょう症になりやすく、変形性股関節症にもなりやすいと言われています。
骨は主にカルシウムでできていますので、カルシウムを豊富に含む食材を積極的にとり入れたいところ。また、カルシウムの吸収をよくするビタミンDもあわせてとりましょう。乳製品や魚介類、干ししいたけ、大豆製品から効率よく摂取できます。
背筋をのばし正しい姿勢をキープ
長時間のデスクワークや腰を深く曲げ前かがみになる作業は、股関節に負担をかけてしまいます。また、痛みがあるとかばうような姿勢になるため、さらに負担が増してしまいます。
できるだけ背筋をのばして正しい姿勢を保ってください。そのためにも運動をして筋力をつけておく必要があります。
変形性股関節症を悪化させないために避けたい動作
普段、無意識に行っている動作が股関節に負担をかけ、変形性股関節症の原因になっていることも。日常生活で避けたい動作を頭に入れておきましょう。現時点で鼠径部に痛みがある人は、特に気をつけてください。
しゃがむ姿勢
今は少なくなっていますが和式トイレは、股関節への負担が大きくなります。しゃがむ姿勢や、ひざまずく姿勢は変形性股関節症の禁忌肢位です。
また、膝を内側に傾ける女の子座りや正座、あぐらなど地べたに座る姿勢もやってはいけない動作です。
股関節に負担をかけないためには、昔ながらの生活スタイルから洋式に変えたほうがいいでしょう。
重たい物を持つ
ズシッと重たい物を持つと腰に負担がかかり、股関節にも衝撃が加わります。買い物に行くときはカートを使うなど負担を減らす工夫をしましょう。片側で荷物を持つと体が傾いてしまうので、両手でバランスよく持つことも股関節への負担軽減につながります。
長時間立ちっぱなし、座りっぱなし
同じ姿勢で居続けることも股関節にダメージを与えてしまいます。立ち仕事の人は、まず片足重心にならないよう姿勢を見直してください。デスクワークなど座りっぱなしの生活も同じです。足を組まない、猫背にならないなど股関節に負担がかからない姿勢を保てるようにしてください。また、こまめに休憩をとり股関節周りのストレッチをするのもいいでしょう。
ジャンプなど激しい運動
ランニングやジャンプなどの激しいスポーツは、股関節に負担がかかるため避けたいところ。現状の股関節の状態を確認し、どれだけそのスポーツに耐えられるのかを医師に相談してください。
変形性股関節症と診断されたら、一年に一度はレントゲン検査を受けるといいでしょう。症状を把握し、適した治療や生活の見直しを行うことで悪化を防ぐことが期待できます。
次回は、具体的な治療法についてお話ししましょう。