ヘルニアとは、臓器や組織の一部が本来の位置から脱出した状態のことを言います。起こる部位によって疾患が異なりますが、今回は整形外科で取り扱う「椎間板ヘルニア」について、松﨑医師に話をうかがいました。
椎間板ヘルニアも脊柱のどこで起こるかによって症状が変わります。種類と症状について紹介します。
本ブログの要約
椎間板ヘルニアは、椎間板内部の髄核が飛び出し神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす疾患です。主な原因は加齢、姿勢の悪さ、過度な負荷などで、首(頚椎)、腰(腰椎)でよく発生します。部位ごとに症状は異なり、頚椎では首や肩の痛み、腰椎では坐骨神経痛が主な症状です。似た症状を引き起こす疾患には脊柱管狭窄症や腰椎圧迫骨折があります。違和感がある場合は早期の医療機関受診が重要です。
椎間板ヘルニアとは
私たちの体を支えている脊柱(背骨のこと)は、椎骨と呼ばれる骨が首からお尻のあたりまで連結したものです。椎骨の連結部分にあるのが椎間板で、脊柱をスムーズに動かしたり、衝撃を吸収するクッションの役割を担っています。関節でいうと軟骨の役割と同じです。
何らかの原因によって椎間板内部にあるゼリー状の髄核が飛び出し、周囲の神経を圧迫するのが「椎間板ヘルニア」です。脊柱の中にある神経を刺激するので、強い痛みやしびれなどが起こります。
猫背など悪い姿勢が定着していたり、重い物を持ったり、激しいスポーツを長年続けていたり、椎間板に過度な負荷がかかることが原因としてあげられます。また、加齢によってクッション性が低下することも原因のひとつです。
脊柱のどこで起こるかによって症状が異なる
脊椎は首からお尻まであり、部位によって頚椎、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎と呼ばれています。椎骨と椎骨の間に椎間板があるのでヘルニアはどの場所でも起こりますが、主に首と腰で発症することが多いでしょう。
首や腕に激しい痛みが生じる頚椎椎間板ヘルニア
首の骨である頚椎の椎間板が飛び出してくるのが頚椎椎間板ヘルニアです。首は頭部を支えている部位なので、常に負荷がかかっているため加齢による劣化の進みが早いと言われています。また、近年はパソコンやスマートフォンの長時間使用により首が前に突き出た姿勢になりやすく、頚椎への負担がさらに大きくなっていることも原因のひとつです。
初期症状は首や肩に違和感があり、安静にしていれば気にならなくなる程度です。進行すると首、肩、腕など上肢の痛みが増し、手のしびれや筋力低下が起こってきます。神経が圧迫されるため、上肢だけでなく下肢の筋力にも影響し、歩行がスムーズにできなくなることも。
背中の疼痛や下肢の脱力感が起こる胸椎椎間板ヘルニア
脊柱の中央部分にあるのが胸椎です。肋骨と繋がっていて、ほかの椎骨と比べると動きが少ない部位です。
胸椎椎間板ヘルニアは頚椎、腰椎と比較すると稀な疾患で、歩行時の急な脱力や下肢のしびれ、筋力低下が現れるまで気づかないことも。初期症状として背中や肋骨周辺に痛みや違和感を感じることがありますが、自覚するのは難しいです。
症状が進行すると、足がもつれるなどの歩行障害、排尿排便障害になることもあります。これは脊髄が圧迫されるために起こることです。
腰痛や坐骨神経痛が起こる腰椎椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアのなかで最も罹患率が高いのが腰椎椎間板ヘルニアです。
加齢による椎間板の変性のほか、長時間の車の運転やデスクワーク、重いものを持ち上げるなど腰に負担がかかる動作、作業が原因といわれています。また、喫煙も発症リスクを高めることがわかっています。20~40代の比較的若い男性に多く見られるのも特徴です。
何番目の腰椎にヘルニアが発生しているかによって症状が若干変わってきますが、代表的な症状は坐骨神経痛です。腰から足にかけてしびれや痛みが生じ、ピリピリと電気が走ったような感じがします。
急に強い痛みを感じることもあり、ぎっくり腰と勘違いしてしまう人もいます。足に力が入りにくい、腰やお尻、足先にかけて痛みやしびれが広がってくる場合は椎間板ヘルニアを疑ったほうがいいでしょう。
椎間板ヘルニアと似た症状の病気とは
腰痛や手足のしびれ、筋力低下、歩行障害など椎間板ヘルニアと似た症状が起こる病気がいくつかあります。代表的な疾患をピックアップしました。
脊柱管狭窄症
脊髄や神経の通り道である脊柱管が狭くなることで神経を圧迫し、腰痛や足の痛み、しびれ、筋力低下が生じる疾患です。前かがみになると症状が軽くなるのが特徴です。
加齢に伴い椎間板が押し出されてきたり、背骨の黄色靭帯が厚くなったり骨のトゲが出てきたりすることで脊柱管が狭くなるのが原因と言われています。
筋筋膜性腰痛症
姿勢の悪さや無理な体勢によって筋肉や筋膜に慢性的な負担がかかり炎症が起こることで痛みが生じます。前傾姿勢や体をねじる動作など腰に負荷がかかる動作が原因のひとつ。特定の動きで痛みが増す、押したときに痛いという圧痛があるのも特徴です。
痛みは数日でやわらぎますが、腰に負担がかかる生活を続けると慢性化する恐れも。
腰椎圧迫骨折
加齢によって骨がもろくなり骨量が低下すると日常生活でのちょっとした外力によって腰椎がつぶれてしまいます。ふとんを片付けるなどの軽い動作でも急激な痛みと共に骨折が起こることもある一方で、気づかない間にいつの間にか骨折していることもあるのが、「腰椎圧迫骨折」です。背中が丸くなってきた、ズキズキとした痛みがある場合は圧迫骨折の可能性があります。
女性は閉経後にエストロゲンが減少し、骨がスカスカになる骨粗しょう症になりやすいので、注意が必要です。
腰椎椎間板症
加齢や腰への過度な負担がかかることによって椎間板のクッション性が失われてくると、周りの神経を刺激し腰痛が生じることを腰椎椎間板症といいます。ヘルニアとは異なり、椎間板が完全に突出していない状態なので、足の痛みやしびれが起こることは稀です。
梨状筋症候群
お尻の深いところにある筋肉・梨状筋が何らかの原因で硬くなり坐骨神経を圧迫することで、お尻から脚にかけて痛みやしびれが起こります。坐骨神経痛と症状が似ているため区別が難しいこともあります。
椎間板ヘルニアは急性の発症が多く、急激にお尻から足に症状が現れることが多いのが特徴です。手足に違和感や疼痛、しびれが生じたときは自己判断せず、まずは病院を受診しましょう。
次回は椎間板ヘルニアの治療についてお話します。
FAQ
Q1:椎間板ヘルニアの主な症状は何ですか?
A1:首や肩、腰から足にかけて痛みやしびれが生じることが多く、進行すると筋力低下や歩行障害が現れる場合もあります。
Q2:椎間板ヘルニアの原因は何ですか?
A2:猫背や長時間の座位姿勢などの姿勢の悪さ、加齢、激しいスポーツ、重い物を持つこと、喫煙などが主な原因です。
Q3:椎間板ヘルニアと似た疾患には何がありますか?
A3:脊柱管狭窄症、筋筋膜性腰痛症、腰椎圧迫骨折、梨状筋症候群などが挙げられます。症状が似ているため、医師による診断が必要です。