近年、健康維持やダイエットのために注目されている股関節の柔軟性。
股関節は足のつけ根の部分で、歩く、立つ、しゃがむといった日常動作の要です。動きが悪いと歩行がスムーズにできず、つまずきやすくなり転倒のリスクが高まります。
体を支えている部分でもあるので、常に負荷がかかっているので不調も現れやすいもの。
今回は股関節の病気のひとつ「変形性股関節症」について松﨑医師に教えてもらいました。
股関節の仕組みと役割
胴体と両足をつなぐのが股関節(Vライン周り)です。大腿骨(太ももの骨)と骨盤が接するところにあります。大腿骨の先端が丸いボールのような形になっていて、骨盤側のくぼみにはまっている球関節で、体のなかで最も大きい関節です。丸い形なので、足を前後左右に動かしたり、回したり自由に動かすことができます。
膝関節などほかの関節と同様に軟骨で覆われているので、衝撃を吸収し動いたときの摩擦を減らしてくれます。また、中殿筋(お尻の筋肉)など周りの筋肉や靭帯で支えられることで安定した動きができます。
股関節は体を支え、歩く、立つ、しゃがむなどの動作に関わっています。歩くだけでも体重の3~4倍の負荷がかかっているので、体重が増えればそれだけ負担が大きくなります。日常動作に欠かせない部位ですから、日々、酷使されている関節といえます。
変形性股関節症の症状とは
日常生活を普通に送っていれば、股関節にある程度の負荷がかかるのは仕方がないことです。その負荷が蓄積されて痛みや病気になって現れます。そのひとつが変形性股関節症です。
加齢や体重増加などによって衝撃をやわらげる軟骨がすり減り、トラブルが起こりやすくなります。気づかないうちに進行していることもあるので、足のつけ根やお尻、太ももに違和感があれば整形外科を受診することをおすすめします。
歩きはじめ、立ち上がりに違和感があるのは要注意
初期の段階では、歩きはじめ、立ち上がりなど動作のはじめに違和感や痛みを覚える人が多いようです。股関節が痛いというより、足のつけ根、太もも、お尻など股関節のまわりの痛み(筋肉痛のような痛み)を感じる方もいらっしゃいます。また、あぐらをかくのがつらいのも初期症状のひとつです。
足がパンパンで正座ができない原因の可能性も
中には、足やふくらはぎがパンパンで正座ができないなんて方もいらっしゃるのではないでしょうか。股関節自体の痛みではないことから、気づかないうちに、実は股関節に原因がある場合があります。
症状が進行すると慢性的な痛みと歩行障害が起こる
痛みが慢性化し、長時間歩くのがつらい、足を引きずって歩くようになると症状は進行しています。
股関節の動きが悪くなると、周りの筋肉が弱くなり歩行しづらくなるのです。特にお尻の筋肉・中殿筋が弱くなると、痛みのある関節側をかばおうとして反対側の骨盤が下がります。これをトレンデレンブルグ徴候といいます。
歩くときに体が左右に揺れる、左右の足の長さが異なるのは、変形性股関節症が原因かもしれません。
股関節の軟骨がすり減りほとんどなくなる末期には、動いていなくても痛みを感じ、激痛で眠れないという方もいらっしゃいます。
加齢や遺伝、発育障害、ケガの後遺症など原因はさまざま
足のつけ根が痛いと受診される方の多くは中高年の女性ですが、変形性股関節症は年齢問わず起こり得る疾患です。
日本人の場合は、発育性股関節形成不全やケガの後遺症など原因が明らかな二次性股関節症が多いとされています。
先天性股関節脱臼や形成不全から発症
日本人の変形性股関節症の原因トップともいえるのが、発育性股関節形成不全です。全体の80%といわれています。
股関節は球状の大腿骨頭が骨盤のくぼみにピタッとはまっている状態ですが、生まれつきはまり方がゆるく、股関節脱臼を起こしやすい人がいます。また、不適切な抱き方やオムツの当て方によって形成不全が起こることも。
股関節は生後4カ月くらいまでにできあがるので、脱臼が起こらないように抱き方には注意しましょう。コアラ抱っこといわれる両足がM字に開脚する抱き方が推奨されています。おくるみでギュッと足を締め付けるのはNGです。足が自由に動くようにしておくことが大切です。
形成不全のまま成長すると、股関節への負担が大きくなり10代後半から痛みや変形が強くなる場合も。さらに放置していると、40代以降に日常生活に支障が出てしまいます。
乳児検診で股関節形成不全と診断された場合は、適切な治療を受けてください。
ホルモンの影響など、女性の罹患率が圧倒的に多い
変形性股関節症と診断された人の男女比を見ると、女性のほうが圧倒的に多い結果が出ています。
理由のひとつは、先天性股関節脱臼と発育性股関節形成不全に女児が多いということです。もともと股関節に負担がかかる要因を持っていることが大きく関係しています。
ふたつ目の理由は、骨盤の構造と筋肉量です。男性よりも骨盤が広く、股関節にかかる負荷が異なります。股関節を安定させるための周りの筋肉量、筋力も男性より少なく、脂肪が蓄積されやすいため変形が進みやすいといわれています。
40~50代で痛みが強くなるのは、加齢と女性ホルモンの減少が影響しています。女性ホルモンのエストロゲンは骨の形成に関わっているので、閉経後に分泌が減ると骨がもろくなりやすいのです。クッション役の軟骨も薄くなるため、炎症が起きやすくなるのです。
レントゲンやCTによる画像検査で診断
初期は痛みに波があるため、痛みがやわらぐと「大丈夫」と安心してしまいますが、足のつけ根やお尻、太ももに違和感を覚えたら、画像検査ができる整形外科を受診しましょう。
病院ではどんな時に痛むのか、痛みの強さなどをうかがい、歩き方や左右の足の長さの違いなどを確認します。
さらにX線(レントゲン)で、股関節の形状や関節が正常に保たれているか、変形度合いなどを見て診断します。X線だけでは平面的な評価しかできないため、必要であればCTやMRI検査で細部を確認してきます。
次回は股関節に負担をかけないための日常生活についてお話ししたいと思います。
<記事更新:2024年10月21日>