こんにちは、アヴェニューセルクリニック院長の井上啓太(いのうえけいた)です。
こちらのブログは、前回の齋藤先生との対談の続きになります。
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東京大学整形外科の齋藤琢医師との対談~TOPs細胞®に欠かせない培地について~
井上医師
二つ目の話題で、少量の脂肪から大量に間葉系幹細胞を育てるために使う不織布(ふしょくふ)についてです。
小さい不織布を使って増やしていきますが、その不織布の特徴やメカニズムをお話いただけますでしょうか?
齋藤医師
今までは脂肪や骨や筋肉などの組織から幹細胞を採って、コラゲナーゼと言われるタンパク質を分解する酵素を使って細胞を取り囲んでいる組織を壊して幹細胞を採取していました。
その酵素はタンパク質を分解するため、細胞自体を弱らせてしまう作用があるので幹細胞の活きが悪くなってしまいます。
そこで、マスクで使用される不織布を使用します。
不織布は、幹細胞にとって接着しやすい細かい足場の様なので、特殊な条件にして幹細胞を置くと勝手に遊走してくれます。
幹細胞が育ってきたら、培養皿の方に移してあげると酵素を使わなくても細胞を取り出せる様になります。
幹細胞の育ち具合は、不織布の素材の違いもあれば密度や繊維の細さでも変わってきますし、不織布の表面を何でコーティングするかということでも変わってきます。
そこで、その様な工業的なスキルは我々には無いので、不織布のトップメーカーでいらっしゃる日本バイリーン様にご協力いただきまして、密度や表面のコーティングといったところの様々な検討を行い、効率よく脂肪から幹細胞を単離するようなものが作れましたので、昨年に特許を出願しました。
現在、そのお陰でかなり安定して幹細胞の培養ができるようになりました。
井上医師
少し最初の方に戻りますが、細胞というのはマトリックスと言われてる基質の中に包まれています。
幹細胞を培養するために、幹細胞だけを採らなければいけないのですが、当初の方法だと基質の部分やその間の部分をタンパク分解酵素で溶かさないといけませんでした。
そこで、この不織布を使った方法だとタンパク分解酵素を使わなくて済むので細胞を痛めなくて済むということですね?
齋藤医師
タンパク分解酵素を使ってた時代は、結構な細胞が死んでしまうので大量の脂肪を採らないといけませんでした。
しかし最近は、技術の進歩によって細胞が痛むこともないですし、最初から元気な状態で不織布の上に移動してくれます。
ご飯粒二つ分ぐらいの脂肪組織があれば、十分な幹細胞を育てる事ができます。
採取する脂肪の量が減るという事は、患者さんの負担も大幅に減っているという事です。
井上医師
不織布の繊維の上に沿って出てくるのが間葉系幹細胞ということですが、繊維の細いところから出てくることができるから、不織布が間葉系幹細胞を選択しているということですか?
齋藤医師
その様な間葉系幹細胞の選択も、不織布の役割として兼ねていると思います。
不織布の上に走り出して移動してくれるというのは幹細胞だけで、成熟した脂肪細胞にはその様な芸当ができません。
不織布は活きの良い細胞だけを選別して、かつ幹細胞を弱らせないということができると思います。
井上医師
不織布の上での培養というのはいわゆる3D培養で、平面に細胞をまいて増やすのが2D培養ですが、間葉系幹細胞の性質というのは両者の培養方法で変わりますか?
齋藤医師
2Dと3Dだと幹細胞の性質が変わるということは、多くの研究者の方がよく言っています。
2Dより3Dの方が小さい媒体で大量の細胞を育てられるというメリットはありますが、臨床だと細胞を採りだしてバラバラの細胞にして注射や点滴で患者さんの身体に戻す時に、三次元で培養してしまうと採り出しにくくなってしまいます。
培養していくと、不織布の奥の方まで幹細胞が入っていくので採り出しにくくなるという事があります。
また、3D培養だと顕微鏡での観察が難しくて成長の過程がわかりにくくなります。
そのため現時点では、最初の数日間だけ不織布を使って3D培養を行なって、観察や回収のしやすさを優先して2D培養に変えています。
今のところ3D培養は、上清を回収してエクソソームを単離するなど細胞自体を使わなくていいプロジェクトでしたら、3D培養が良いだろうと考えています。
井上医師
私は個人的に煎餅みたいになっている不織布というのは、3D培養でもありさらに回収の時に採り出しやすいので、不織布は、3D培養だけど2D培養の良さを兼ね備えているかなと思っています。
齋藤医師
あまり不織布を分厚くしないということでしたら、井上先生がおっしゃっている2Dと3Dの良い所を寄せ集めできるかもしれないですね。
次回は「メカニズム」についてお話させていただきます。
こちらの内容は動画でもご覧いただけます。