近年、ニュースなどで耳にする機会が増え、認知度が上がってきた「再生医療」。しかし、まだ発展途中の分野であることから安全性は大丈夫? 効果は持続するの?など、不安な声も聞かれます。
そこで、再生医療とはどんなものなのか、私たちのアヴェニューセルクリニックで行っている実例を交えながら基本的なことをお話したいと思います。まずは、再生医療で用いられる「幹細胞」について、解説します。
けがや病気で失われた組織の細胞に代わって補充、修復できるのが幹細胞治療
再生医療とはヒトの皮膚などの組織や細胞を用いた治療法のことです。日本で、再生医療が脚光を浴びるようになったのは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発した京都大学の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したころからでしょう。
再生医療に用いられる細胞は、幹細胞と呼ばれるものです。まずはこの幹細胞についてお話します。
私たちヒトの体は、もとをたどれば「受精卵」という一つの細胞です。この受精卵が細胞分裂を繰り返し、骨や皮膚、筋肉などを作り上げていきます。細胞には決められた場所での役割があり、皮膚なら皮膚、心臓なら心臓で働き続けます。そして、細胞にも寿命があり、常に新旧入れ替わって組織の機能や形を保っています。
特定の役割が決められている細胞がある一方で、さまざまな組織になれる細胞が存在します。それが「幹細胞」です。普段は役割を決められた細胞に紛れて何も仕事をしていませんが、けがや病気でどこかの組織の細胞が損傷したり、数が減ったりしたときにその細胞の代わりに補充、修復をしてくれるのです。この性質を活かしたのが再生医療です。
幹細胞には「分化能」と「自己複製能」の能力がある
普段は仕事をせず、さまざまな組織に紛れて待機している幹細胞ですが、ここぞというときに二つの細胞に分裂し、それぞれ異なる能力を発揮します。
例えば傷を負って皮膚の細胞が多く失われたとき、それまでじっとしていた幹細胞が皮膚の細胞に変化します。体をつくるさまざまな組織に変化することを「分化能」と言います。
このとき、必ずもう一つの自分(幹細胞)を複製し、自分が消えてしまうことを防ぎます。これを「自己複製能」と言い、分身をつくることで同じ能力を持つ幹細胞の数を一定に保とうとします。しかし、幹細胞の自己複製能力は永遠に続くわけではなく、加齢とともに減ってしまいます。
幹細胞の種類は「多能性幹細胞」と「組織案細胞」の二つ
二つの能力をもつというお話をしましたが、種類も大きく分けて二つあります。一つは私たちの体の細胞であれば、皮膚でも心臓でも血液でも何にでもなれる「多能性幹細胞」です。もう一つは、皮膚や血液など決められた組織や臓器に存在し、ダメージを受けて消えた細胞の代わりになる「組織幹細胞」です。
それぞれについて、詳しく説明しましょう。
どんな細胞でもつくれるのが「多能性幹細胞」
私たちの体をつくるさまざまな細胞に変化できる能力を持っている「多能性幹細胞」には、「ES細胞」と「iPS細胞」があります。
ES細胞のもとは、ヒトを生み出す受精卵です。この受精卵が数回分裂して100個ほどの細胞のかたまりとなった胚の内側から細胞を取り出し、培養したものがES細胞です。まだ100個ほどの胚にしか分裂していないため、体のどんな組織、臓器にもなれる能力を秘めています。
iPS細胞は日本人にとって耳なじみがあるのではないでしょうか。これは、皮膚など体のなかにある細胞をもとに、「リプログラミング因子」と呼ばれる特定の因子を入れて人工的に作製した多能性幹細胞です。ES細胞に匹敵するほど若返り、多能性を持ちます。
消えていく細胞の代わりをつくり続ける「組織幹細胞」
皮膚や血液、筋肉など決められた組織や臓器に存在するのが「組織幹細胞」です。自分の持ち場で消えゆく細胞の代わりとなる細胞をつくり続けています。かつては、血液をつくる造血幹細胞であれば血液系の細胞、神経細胞であれば神経系の細胞と決められた一つの細胞にしか分化(変化)しないと考えられてきました。しかし、組織幹細胞のなかにも多能性をもつものがあることがわかってきました。
ES細胞やiPS細胞のようにすべての細胞に分化するわけではありませんが、複数の細胞に分化することが確認されています。このことから再生医療に活かす研究が盛んになり、2013年7月時点で、80件以上の臨床研究が報告されています。
神経幹細胞、造血幹細胞などさまざまな組織幹細胞が発見されていますが、なかでも注目を集めたのは骨髄由来の組織幹細胞です。骨髄のなかに存在する「間葉系幹細胞」は、筋肉や軟骨、神経などに分化します。2019年からは札幌医科大学で、脊髄損傷の治療に骨髄由来の幹細胞を用いた薬が使われています。
アヴェニューセルクリニックで用いているのもこの「間葉系幹細胞」です。
再生医療の材料として注目されているのが「間葉系幹細胞」
再生医療においてホットなキーワードが「間葉系幹細胞」です。この「間葉系」の「葉」とは、「胚葉」の「葉」です。胚葉は受精卵が何回か分裂して成長した細胞のかたまりのことで、内胚葉、中胚葉、外胚葉があります。それぞれの胚葉から臓器などがつくられていくのですが、「間葉系」は心臓や血液、骨、軟骨などをつくる「中胚葉」から発生した未分化の組織と考えられています。
近年、骨髄のなかに存在する間葉系幹細胞と似た性質をもつ幹細胞が皮下脂肪にもあることがわかってきました。「脂肪由来間葉系幹細胞」と呼ばれるもので、組織幹細胞のなかでも採取が簡単で組織量も豊富にあることから、再生医療の材料として注目を集めるようになりました。現在、脂肪幹細胞を用いた治療が多くの医療機関で行われています。
たとえば、膝や肘の変形性関節症では、関節内に脂肪幹細胞を注射する治療が行われていますし、脳梗塞、多発性硬化症などの疾患にも治療効果があることがわかってきました。
アヴェニューセルクリニックでは、クリニック内で脂肪幹細胞を培養する施設があり、変形性膝関節症や皮膚の加齢性変化、脱毛症をはじめ、さまざまな治療を行っています。具体的な治療法については改めてお話しましょう。