「子曰く、工その事を善くせんと欲せば、必ずまずその器を利ぐ(うつわをとぐ;道具を磨く)。」 論語 衛霊公
当院の名前にもなっている、「セル」
細胞という意味ですが、この細胞が発見され、培養でき、治療に生かせるようになった歴史を振り返りたいと思います。
細胞が周知されたのは、1655年。ロバート・フックが「コルクガシの樹皮を観察したら、多少の小部屋が並んでいた。」と刊行した著書に記したことが始まりとされています。
その後1800年代になって植物・動物の組織観察が盛んとなり、「細胞説」が提唱されるようになりました。1855年にルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョーが、細胞は分裂して増える という説を発表。続く1860年にルイ・パスツールが生物の自然発生説を否定し、生物は細胞増殖で成長することが知られるようになりました。パスツールの自然発生説教科書にも載っていることがあり、ご存知の方も多いかもしれません。「白鳥の首」フラスコ。細長―いガラス管が印象的ですよね。
ウィルヒョーといえば、白血病の発見者。パスツールといえば、ピペット。いずれも今に名の残るすごい人たちです。
その後、生きた臓器や組織を体の外で生かせないかという研究が進行します。
1885年、ルーがニワトリ胚から採取した組織を温めた生理食塩水で数日間維持できたと報告。1907年にはハリソンが似た手法を用いて、神経線維が伸びることを観察しました。この技術がもととなって、1910年以降に哺乳類由来の細胞が培養されるようになります。
時代は進み、1960年代。幹細胞治療の研究に関して、マンハッタン計画が関係しているといわれています。原子力爆弾の開発が行われ、本邦では歓待されない名前ですが、研究分野に貢献していたのも事実のようです。
大量の放射線を浴びたマウスは、血液がうまく作れなくなって死んでしまっていた。そこにほかのマウスから骨髄細胞を移植すると生きることができる、というものです。造血幹細胞の移植実験です。
細胞には、成熟すると様々な機能を持つ分化した細胞になること(文化能)、自分と同じ細胞を作り出すことができること(複製能)、があることが確認されるようになりました。
その後、再生医療として応用されるようになり、今日の医療としてみなさまに提供されています。
白血病に関連した歴史、今生かされている培養細胞の特徴などは、当院HP医師ブログ 間葉系幹細胞の歴史と再生医療で用いたときにどのような効果があるのかにも詳しく書いてあり、動画もございます。合わせてご参照ください。
長い歴史の中で、一歩ずつ喜怒哀楽の中で研究され、身近なものとして届けられる。その途中で技術や道具は磨かれ、開発されていきます。論語に言う 自分の道具を磨く職人さながら、パスツールの開発したガラス管(ピペット型)は今に生き、細胞培養でもよく使われます。
医療の歴史を知ると、当時の人たちの想いを追従できる感じがして、感慨深いものがあります。
ではまた!
(加藤基)
参考資料
Wikipedia
再生医療Portal 再生医療の基礎知識 細胞培養はいつから始まった?
パスツール 白鳥の首 フラスコ
パスツールピペット