こんにちは、アヴェニューセルクリニック院長の井上啓太(いのうえけいた)です。
前回に引き続き齋藤先生との対談になります。
前回のブログをまだご覧になっていない方は、こちらからご覧下さい。
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東京大学整形外科の齋藤琢医師との対談~TOPs細胞®に欠かせない培地について~
東京大学整形外科の齋藤琢医師との対談 〜TOPs細胞®を育てる不織布について〜
井上医師
最後は、脂肪由来幹細胞が変形性膝関節症に対して効果を発揮するメカニズムについて対談していきます。
齋藤医師
メカニズムについては難しいというか、全てを解明するには時間がかかります。
何故かというと、変形性関節症自体の理解がまだ追いついていないというのがあります。
なぜ変形性関節症になっていくのか?
なぜ痛みが出るのか?
ということも全ては解明されていません。
私達の幹細胞の研究と平行して病態の研究もしてきました。
そこでいくつかわかってきた事があります。
当初、幹細胞治療で期待されていた効果として幹細胞で軟骨・骨を作ることもできるし半月板も作ることもできるので、幹細胞を未分化のまま関節に入れたら軟骨・骨・半月板が修復されて若い時の関節に戻るのではないか?というのが十数年前の幹細胞治療の始まりでした。
しかし、残念ながら構造的に若返るという事は期待した程は起きませんでした。
部分的に軟骨が少し分厚くなったり、半月板のサイズが大きくなるという事は確認はできましたが、幹細胞治療を受けた全員に構造的な変化は見られませんでした。
また、軟骨や半月板が若返ったからといって必ずしも痛みが良くなるとは限らないという事もありました。
この治療の本質としては、幹細胞を入れる事によって痛みが起きにくい関節に生まれ変わるということです。
幹細胞が関節に働くメカニズムとしては、幹細胞は軟骨や半月板に張り付くということはあまりなく、滑膜(かつまく)という関節を包み込んでいる袋の内側に張り付くという事です。
一般の方は耳慣れないと思いますが、この十年くらいの間で変形性関節症を改善させる鍵の一つが滑膜だと分かってきています。
ただの袋だと昔は思われていましたが、そこにはマクロファージなどの免疫を司る細胞がたくさんいたり、滑膜幹細胞と呼ばれる幹細胞もかなりの数が存在しています。
滑膜にいるマクロファージはゴミ掃除をするような細胞ですが、膝を長い間使っていると表面の軟骨が少しずつ削れてきます。
その軟骨の削れたゴミを掃除するのがマクロファージですが、ゴミ掃除が大変になると炎症を起こしてしまいます。
その炎症を鎮めたり小さい傷を治したりするのが幹細胞の役割ですが、変形性関節症が進んでくると炎症の程度が強くなり膝の関節の中に元々いる幹細胞だけでは制御しきれなくなります。
もしくは、老化と共に滑膜幹細胞が減少して炎症を鎮める事ができなくなります。
この一年ぐらいの我々の研究で脂肪由来幹細胞を入れてあげると、滑膜幹細胞の様なものに姿を変えて炎症を鎮める仕事をしてくれることが分かってきました。
専門用語でリモデリングと呼んでいて、半年から一年くらいかかりますが滑膜に幹細胞が入る事で炎症が軽減して痛みを起こしにくくなります。
そのため幹細胞の作用点は軟骨でも半月板でもなくて、ほぼ100%に近い確率で滑膜だろうと考えています。
データで滑膜の幹細胞は、年齢とともに減少していくというのが分かってきていましたが、皮下脂肪の幹細胞は年齢を重ねて性能が維持されているのではと考えられています。
したがってお年寄りであっても、そこそこ元気な方であれば培養によって幹細胞増えていきます。
体中にある幹細胞の中でも、皮下脂肪の幹細胞は年齢の影響を受けにくい特殊な幹細胞で、なおかつ体の表面にあって採りやすいので幹細胞治療にはとても最適と考えています。
井上医師
少量の脂肪から幹細胞を採取してくる際に、増殖する力がある幹細胞だけ増えてきます。
結果として得られた細胞というのは、基本的には元気な細胞ばかりという事が考えられますね。
齋藤医師
それもあるかもしれないですね。
井上医師
最初は細胞を育てるときの培養液について、次に細胞を増やしていく時の不織布について、最後に膝関節症に対して効果を発揮するそのメカニズムの3点について詳しく話を聞かせて頂きました。
齋藤先生、ありがとうございました!
こちらの内容は動画でもご覧いただけます。