さて、前回から始めました最前線シリーズ
今日は脂肪幹細胞を用いた再生医療の最前線にアプローチしてみたいと思います。
脂肪幹細胞は前回のお話でも出てきたように、脂肪にある、だいたい何にでもなれてしまう 赤ちゃんのような細胞です。さまざまな治療に用いられているのですが、中でも細胞が出す分泌物が重要と言われています。サイトカイン、ケモカイン、炎症因子、成長因子、エクソソーム、プロテインなどなどさまざまなものを分泌しますが、それぞれが細胞増殖や移動、分化開始や免疫細胞の活性化などの役割を担っています。いわばメッセージを出している、ということですね。赤ちゃんがポンっと大人の中に放り込まれて泣き出すと、なんとかしなきゃと周りの細胞たちが活発になって、全体の雰囲気が活性化する、なんていったところでしょうか。
近年はこの治療法をさらに進化させるために、組織工学と呼ばれる、最新の技術を用いた素材が組み合わされて、治療に応用することが期待されています。いろいろなものがその材料になるわけですが、中でもポリエチレングリコール(PEG)は安全性が高いことで有名です。コロナワクチンを溶かす液や化粧品などにも広く使用されていて、皆さんの近くに溢れている便利素材です。
このPEG、ちょっと配合を変えることでいろんな新しい素材を作ることができるんで、目的に合わせた安全な素材を作りやすいんですね。というわけで、脂肪幹細胞を用いた治療にもPEGが応用されています。
脂肪幹細胞は人からとってきて、シャーレの上で増やして、人に返すという3段階ありますが、この増やす(培養)ところ、人に返す(投与)ところで主に使われます。培養中に失われる多くの分泌物質を保つことに有益だったり、投与されるときに細胞が長く生きるように、うまく生着するように、活用されています。まだまだ実験段階ですが、今後はさまざまな方面でバイオマテリアルを用いた幹細胞治療が進むことが予想されます。
より便利に、より安全に。医療は進み続けているんですね。
ではまた!
(加藤基)
参考資料
Han, Yu, et al. "Mesenchymal stem cells for regenerative medicine." Cells 8.8 (2019): 886.
Wechsler, Marissa E., et al. "Engineering the MSC secretome: a hydrogel focused approach." Advanced healthcare materials 10.7 (2021): 2001948.