「 子曰く、君子に九思あり。視には明を思い(以下略)」 論語 季氏
第7波が急激な拡大をみせ、コロナウイルスの感染は留まるところを知りません。ウイルスがどのように感染し、どのように取り込まれていくのか。これは通常目に見えない世界ですが、近年は研究方法の進歩によってある程度、見て評価できるようになってきています。
ウイルスの感染方法にはいくつか形態があります。COVID-19はウイルスの表面にある突起のようなスパイクタンパク質がヒト細胞のACE2受容体というところにくっついて、酵素が細胞側から分泌されることでスパイクタンパク質が切断し、細胞膜が融合することがわかってきています。
逆にウイルスを治療に使う、ということも行われています。遺伝子治療と言って、再生医療の一環として近年注目されている方法の一つです。中でも副作用の小さいものとしてアデノ随伴ウイルス(AAV)について以前他のコラム(Drもとい連載コラム 13. ウイルスと遺伝子治療)で取り上げましたが、治療に用いられるだけに、様々な方法でどうやって取り込まれるのか、どのウイルス型は特に取り込みが早いのか、などの研究が進んでいます。
とは言っても、ウイルスの大きさは25nm(ナノメートル)程度。1mの10-8くらい小さいものです。ウイルスが人の細胞に入り込むところを観察する、というのは大きさを例えていうなら、地球が芦ノ湖に飛び込む子供を観察する、くらいの大きさです。とにかく小さい。
このサイズでどうやって「見える化」すると思いますか?
実は蛍光標識という方法を使います。ウイルスにあらかじめ蛍光色素をくっつけておいて、その色素がどのように移動したかを高性能の顕微鏡で観察して追いかけます。
暗い会場でオタ芸の方々がペンライトを使った踊りをしている映像、みたことありますが、まるで暗闇で強烈なオタクが芦ノ湖に飛び込む様子を地球の外から観察するような状態です。「見えるようにするときには明瞭に」という論語の言葉もありますが、研究の情熱ここにありと言ったところでしょうか。
一般的に細胞側がウイルスを取り込むようにして感染は成り立ちます。その一歩となる細胞側の認識を止めよう、というのが今4回目だなんだと言われているワクチンの効果です。
少し関係しつつも若干再生医療から離れた話になりましたが、次回以降また再生医療の最前線について触れていこうと思います。
ではまた!
(加藤基)
参考資料
Nature ダイジェスト Vol. 18 No.10
Keiser NW, Yan Z, Zhang Y, Lei-Butters DC, Engelhardt JF. Unique characteristics of AAV1, 2, and 5 viral entry, intracellular trafficking, and nuclear import define transduction efficiency in HeLa cells. Hum Gene Ther. 2011 Nov;22(11):1433-44. doi: 10.1089/hum.2011.044. Epub 2011 Jun 28. PMID: 21574868; PMCID: PMC3225038.