
久しぶりのコラム再開です。ウイルスの肩を持つわけでは決してありませんが、ウイルスも人の役に立つことがあるよ、ということを紹介したくて本日はコラムを書き始めました。
遺伝子治療ってご存知でしょうか?最近注目されている、強力な治療が可能となる方法で、最近研究が進んでいます。この治療の核にあたる遺伝子導入技術にあたって、ウイルスが大事な役割を担っています。
細胞と遺伝子
みなさまご存知のとおり、私たちの体は細胞からできています。270種類、37兆!個からなる細胞はもとを辿ればみなさんたった一つ、受精卵から分裂してできてきます。その途中で、あたかも赤ちゃんが子供、学生をへて社会人となって様々な職業に成長するかのように、ある細胞は筋細胞になったり、神経細胞になったりします。遺伝子は細胞の設計図のようなもので、分裂する時にも変わらずコピーし続けられます。最終的な細胞(終分化細胞)になるまでの間、ずーっと細胞に含まれる遺伝子は同じものですので、口の粘膜からとった細胞、髪の毛の毛根の細胞、どれをとっても基本的に同じ遺伝子情報が含まれているわけです。ですので、現場に残されたわずかな細胞をDNA鑑定することで、警察は個人を同定できるわけです。
さて、少し脱線しましたが、この成長していく過程で遺伝子(設計図)はいつも同じ強さで同じように読まれるわけではありません。時期によって、部位によって、これ必要だから!と積極的に使われる部分というのは異なります。例えばあるとき細胞に「c-Mycの部分、強く読み込んでください!」という指令が下りました。細胞はなんだか分裂しやすくなって、あれ がん細胞になっちゃった。。という具合に細胞は遺伝子への操作で変化するものなのです。これを人工的にやってしまおうというのが、遺伝子導入と言われる方法です。遺伝子治療はこの遺伝子導入技術を応用して治療にいかすというものです。そして遺伝子に操作を加える技術体系を遺伝子工学といいます。
遺伝子治療と幹細胞治療
遺伝子に直接操作を加えて治療を施すというのは、実践された1990年ごろ、ものすごい反響だったようです。生まれもって遺伝子の問題で体に必要な成分を作ることができず、例えば免疫不全になるために多くは乳児の間に死んでしまう疾患(アデノシンデアミナーゼ欠損症)が遺伝子治療で治る、となるとその効果は絶大です。しかし1999年に死亡事故が起きたことや白血病を患うことになったために少し陰りをみせはじめます。2006年に山中伸弥先生らがiPS細胞を報告したことを受けて、特に日本では幹細胞治療に大きくシフトしてきました。先ほど例としてあげたc-Myc遺伝子は山中因子と呼ばれる、iPS細胞を作るための4つの因子の一つでもあり、とても有名なものです。そうです、もうお気づきかもしれませんが、iPS細胞を作る際に遺伝子導入技術が必須ですが、ウイルスを使って行われてきました。
この役に立つウイルスは、現在大きく分けて4種類くらいが使われています。レンチウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、センダイウイルス、などなど、、実験室で比較的簡単に作成が可能です。これらウイルスが運び手(ベクター)となって遺伝子発現を起こす、ということでウイルスベクターと呼ばれます。
遺伝子とウイルスといえば、欧米で導入されて効果が期待されているワクチンも、この恩恵ですね。RNAワクチンもDNAワクチンもウイルスベクターワクチンも、コンセプトとしてはゲノム情報に焦点を当てたワクチンという点では一致して従来法とは異なる、新しいものです。ゲノムは遺伝子を含む遺伝情報全てを指しますが、今年のノーベル化学賞を受賞した「CRISPR/ CAS9ゲノム編集法の開発」も、まさに遺伝子工学のさきがけです。
感染症との闘い方も、治療法も、新時代に入ってきているように思います。ウイルスの感染力を使って、治療に応用しようというアプローチ。毒を以て毒を制すると言いましょうか。人間ってすごいな、と思うこの頃です。
ではまた!
(加藤基)
参考文献
Wikipedia 遺伝子治療
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E6%B2%BB%E7%99%82
北大リサーチ&ビジネスパーク
https://www.hokudai-rbp.jp/news/116
CiRA研究所(京都大学iPS研究所)
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/