とある知り合いの中学生に職業を聞かれて、外科医と答えたら「メス!」と掌を出されました。あの、私、どちらかと言うと、受け取る方なんですけど。
さて、このメス。実は英語じゃないって知ってましたか?日本でこそ有名な言葉ですが、オランダ語の「mes」が幕末から定着した言葉だと言われています。ちょうど西洋医学が日本に入ってきた時代。蘭学の影響が残っているんですね。英語では「scalpel」や「knife」と呼ばれます。
紀元前2100年以上前、トルコの集落からは黒曜石を鋭利に加工して作成したメスが発見されています。また、古代エジプトのパピルスにはさらに小型化されたメスが記録されており、脳外科手術などに使用されていたそうです。
メスは長い間、同じものを研磨して繰り返し使用されていました。昭和中〜後期ごろから感染や衛生面での問題が指摘されるようになり、使い捨てメスに対する開発が進み、今では使い捨てメス、または刃の部分だけが使い捨てになっているメス刃が一般的となっています。
昭和初期には、大学病院などの大きな病院には研磨室が備え付けられていて、研師(とぎし)による研磨が日常的に行われていたとのこと。かの有名な医学漫画「ブラック・ジャック」に、マントの中にたくさんの刃付きメスを隠し持っていて、忍者が手裏剣を投げるようにメスを投げるシーンがありました。使い捨てでなかった当時の医療を想像させます。令和版ブラック・ジャックは、小型化した使い捨てメス刃をポケットの中に隠し持ち、指先で弾いて的に当てるのかもしれませんね。まるでスパイのようです。
さらに細かいものを、必要なだけ切開したいと言う要望に応えるように、眼科の白内障手術などで使用される精密メスが開発されています。使い捨てですが手持ちの部分と一体型になっています。リンパ管静脈吻合術の際にリンパ管へ切開を加える、などで使用することがありますが、非常に切れ味が良く、安心感があります。
その他、以前コラムでも取り上げました、高周波電流を用いて止血ができる電気メス。水流を使って汚い組織を薄く削ることなどが可能なウォータージェットメス。レーザーを使って必要な部分だけを止血しながら切開できる、レーザーメスなど、様々に応用された「メス」が出てきました。
「あれば切る、なければ作るの、外科心」と若い時に教えてもらったことがあります。切る、と言う非常に大事な作業のためにメスも発展してきたんですね。まさに外科発展の歴史を見るようで面白いです。今後、何が切れるどんなメスが出てくるのでしょうか。
ではまた!
(加藤基)
参考資料
メス wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Scalpel
白内障LAB
https://www.hakunaisholab.or.jp/study/kai/