「リンパ浮腫に運動は有効か?」というご質問をよくいただきます。
リンパ浮腫の臨床的な発生リスク(手術方法や放射線療法など)に関する研究はたくさんありますが、運動とリンパ浮腫の関連についての質の高い研究はそれほど多くはなく分からないことも多いです。
今回は、いただいた質問の中で“リンパ浮腫の人は運動していいのか?”というものがありましたので、科学的根拠とともにお答えしようと思います。
結論として、上肢リンパ浮腫は、弾性着衣を装着した状態での負荷を伴う運動はリンパ浮腫を悪化させずに筋力向上を期待できます。下肢リンパ浮腫に関して、弾性着衣を装着した状態での負荷を伴う運動は有効という報告もありますが、質の高い研究は未だありません。
今回ご紹介する研究1は、アメリカのペンシルベニア大学で行われた、141人の乳がん術後1 ~5 年経過した上肢リンパ浮腫の患者さんを対象としたランダム化比較試験です。ベンチプレス,フットプレスをインストラクターの指導下に13 週間,自己実施で39 週間行い、介入終了1 年後のリンパ浮腫増悪は介入群14%vs. 対照群29%でした。圧迫した状態でのウェイトトレーニングはリンパ浮腫の増悪頻度を減らし,症状軽減と筋力向上につながると結論づけています。
一方で、下肢リンパ浮腫に対する運動療法の質の高い研究は今のところほぼ存在しません。(弾性着衣を装着した状態での負荷を伴う運動は有効という症例報告はいくつかあります。)
様々な患者さんを診る中での個人的な印象ですが、「無理のない範囲で弾性着衣をつけた状態でのウェイトトレーニングやウォーキングはお勧め。過度な運動や、患肢に衝撃の加わるジョギングなどは悪化するリスクがある。」とお伝えしています。
引き続き、質の高い研究が発表されることを期待しております。
(辛川領)
<記事更新:2024年4月22日>