秋の風が徐々に広がり、今年の暑い夏が過ぎてゆきます。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
本日はリンパ系の新しい内服薬とその歴史に触れたいと思います。
リンパ管の病気、というと私たちが普段治療をしています、リンパ浮腫が最も多いのですが、実はそれだけではありません。
リンパ管自体がぷくぷくと袋のようになってしまうリンパ管奇形(リンパ管腫とも言います)やリンパ液が皮膚以外の異常な場所に溜まってしまう胸水や腹水の一部(乳び胸などとも言います)、など様々です。こちらの方が患者さんの数は少ないのですが、実は命に関わることが多かったり、顔や首など人目につきやすい場所に出来やすいことから、しっかりと治療する必要のある病気です。重症な方をはじめとしてなかなかに難しく、難渋することが少なくありません。
そんななか、近年注目されている内服薬があります。シロリムス(一般名:ラパマイシン)です。この薬は免疫抑制剤として使用されてきた薬ですが、大きなリンパの袋が小さくなったり、リンパ液がジャジャ漏れになっている状態を飲み薬で改善できると期待されているのです。
ではこの薬、どうして効くのでしょうか。細かいことを話し出すと止まらなくなりそうなので、端的にまとめます。
皆さんの体の中で今日もリンパ管の細胞は作られています。これを作ってください!という指令の伝達は小さなタンパク質が担います。いろんな指令があるなかで、特に「リンパ作りなさい」指令の中でも特に有名なmTOR系をストップさせる(阻害する)ことで指令が届かないようにする。そうすると新しいリンパ管は作られにくくなります。つまり、リンパ管内皮細胞の新生が抑制されることになるわけです。大きなリンパの袋やリンパ液が漏れ出る状態は、リンパ管内皮細胞が活発に作成されていることもあり、この薬が効く というわけです。
欧米を中心に有効性がたくさん報告されていて、日本でも治験で有効なことが確認されています。つい最近、2021年9月27日付で世界初の承認(疾患に対する追加承認)を得ました。岐阜大学の小関先生はじめ、関わった先生方の努力の結晶と思います。
だいぶ前になりますが、「医龍3」というドラマで、内科vs外科という構図が好きでした。だんだんと外科の手術が内科治療に置き換わり、どうする外科?という内容でしたが、まだ駆け出しだった私はストーリーの展開を楽しみにしていたのを思い出します。実際に現場に立つと内科だけ 外科だけ でうまくいかないことも多々あり、内科・外科が実際には協力していくことが多いと痛感しています。そしてその一つである内服薬の保険承認は、困っている方々に多く届けられる可能性が高く、私も期待しているところです。
このシロリムス、どうやって発見されたか、など大変面白いので、その話は次回以降に。。
ではまた!
(加藤基)
参考資料
ノーベルファーマ株式会社 添付文書
https://www.nobelpharma.co.jp/_cms/wp-content/uploads/2021/09/232a5b1e412bea3060dabb6600ae3406-1.pdf