梅の花が咲き始め、次第に春が近づいているのを感じます。皆様いかがお過ごしでしょうか。
以前、縫合糸の歴史についてコラム記載しましたが、身内から好評でしたので今日も歴史シリーズで進めていこうと思います。本日は電気メスです。
医療ドラマでもよく出てきますし、皆様も聞いたことくらいはあると思います。現代の外科医の必須アイテムと言ってもいいかもしれません。われわれ、リンパ管静脈吻合術の手術でも毎回使用しています。電気の力ですぐに止血できるし、組織を切り開いていくメスのような働きもできる、という点で非常に便利な道具です。
電気メスは高周波電流を使用しています。電気における周波はプラスとマイナスが入れ替わる頻度のことで、簡単にいうと低周波だとゆーっくりビーリビーリとなるのに比べて、高周波ではビリビリ ビリビリとなります。1秒間に何回振動が繰り返されるか、をHz(ヘルツ)であわらし、日本では概ね西日本が60Hz, 東日本が50Hzです。で、本題に戻りますが、電気メスはなんと300k~5M Hz。ざっと10,000倍くらい違います。あまりに高周波すぎて電圧が高くても人体は感じず感電もしない、ということのようです。
もちろん石器時代にこのようなものがあるわけではなく、電気が発見されて、手術で応用できるんじゃないかと考える人がいて、発明されてきた わけですが、その歴史に迫ってみたいと思います。
始まりは1890年、高周波電流を生体組織の止血に応用したことと言われています。その後、1926年、米国のマサチューセッツ工科大学 工学博士W.T.ボビーが電気メスを開発。これを応用して、同年脳外科医により電気メスを用いた世界初の外科手術が行ハーバード大学でわれました。執刀医は、Cushing教授。脳神経外科の父と呼ばれることもあります。「外科医の手袋〜愛の物語〜」で紹介した、外科ゴム手袋の創始者ハルステッド教授の弟子で、1932年にCushing症候群を報告していることでも有名です。つながるものですね!
さて、アメリカでの初報告から下ること4年。1930年に日本で初めて電気メスが開発されます。そして1935年、日本で初めての電気メスを用いた外科手術が行われます。これも脳外科手術でした。しかし当時の電気メスは真空管を使用しており、温まるまで出力が安定しなかったとのこと。革新的な機器でも不便さはあったんですね。
その後1965年にはスイッチONで即座に使用できるトランジスタ式の電気メスが登場し、日本では1977年に初めて販売されています。今では当たり前に使用されており、なくてはならない医療機器の一つと言っても過言ではありません。手術中の出血を大きく減らすことができ、安全な医療に大きく貢献しています。
当たり前って、すごいことだなと改めて思います。
いま当たり前になっていることが当たり前ではなかった時代を想像し、どうやっていまの当たり前ができてきたのか。そんなことに思いを馳せるだけでも、すごく面白いなあと思います。きっと50年、100年たった頃、今の医療を「そんなことやってたの?まさか!」と思う人たちがいるんでしょうね。そしてこと私としては現代の一員として、そんな未来に一歩でも近づくお手伝いができればいいなあと思う次第です。
ではまた!
(加藤基)
参考資料
印西市立印旛医科機器歴史資料館HP
電気メス(wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E6%B0%97%E3%83%A1%E3%82%B9
コラム 医工連携による発明 電気メスの誕生
https://ikousyou.com/20190915/
電波周波数地域 SHARP HP
https://jp.sharp/support/info/info_hz_1.html
小野哲章 電気メスの原理と安全対策 体外循環技術 1984 vol,10 no.2
<記事更新:2024年2月26日>