急性呼吸窮迫症候群(ARDS=Acute Respiratory Distress Syndrome)は、感染などを契機に肺の内部に炎症が起き、浸出液で肺の中が水浸しになり、肺がつぶれてまともに呼吸ができなくなる状態です。肺には肺胞という小さい袋がたくさんあり、毛細血管とリンパ管が取り囲んでいます。この毛細血管から沁み出た間質液は、健康な時はリンパ管により回収されますが、ARDSでは沁み出す液の量が増加する上にリンパ管からの回収が滞るので、肺胞内に浸出液がどんどん溜まってしまいます。浸出液が溜まった肺胞は吸った息が入りにくくなるため、つぶれやすくなります。肺胞がつぶれるとガス交換ができず、全身に酸素が供給できなくなります。治療として肺がつぶれるのを防ぐために陽圧をかけた人工呼吸器の装着が必要で、肺炎のなかで最も重症で危険な状態ともいえます。
ARDSに関してひとつ論文をご紹介します。
アメリカ胸部疾患学会の機関紙であるATS journalsのひとつ"American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine"に掲載された、
という論文です。間葉系幹細胞(MSC)をARDS患者に点滴投与すると、呼吸状態が改善するということが動物実験からも臨床試験からも確認されつつありますよ、という総説論文ですね。間葉系幹細胞(MSC)はARDSの炎症を抑制し、傷害された肺を修復するというメカニズムが動物実験などによって確認されています。また、この論文では7つの臨床研究の結果が紹介されています。間葉系幹細胞は骨髄由来と臍帯由来で安全性は確かめられたということ。有効性については人数を増やして検証してゆく必要がありますが、、。基本的には他人の幹細胞ということになります。
下のグラフはMetricsという科学論文の閲覧数を分析するツールですが、この文献、発表から3年たってますが3月から急激にダウンロード数を伸ばしていますね ↓
武漢の医療機関によれば、ICU入室を要したCOVID-19感染者のなかで、初期の報告(1月末)では29%、のちの報告(2月末)では67%にARDSの発症を認めたとのことです。
武漢報告Lancet 1月 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30183-5/fulltext
武漢報告Lnacet 2月 https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(20)30079-5/fulltext
幹細胞をコロナ肺炎ARDSに使おうという動きは、とくに中国では早いようです。一昨日の中国中央電視台(CCTV)のLIVE放送で、コロナ肺炎患者200人に対して幹細胞を投与し、良好な結果を得たというニュースが流れたようです。
以前のブログでもご紹介した通り、臨床試験として行っているようなので、今後正式な結果が公表されると思います。