スポーツ外傷、スポーツ障害に対する再生治療といえば、よく知られているものとしてPRP(platelet-rich plasma=多血小板血漿)療法があります。血小板を濃縮し、血小板に豊富に含まれている成長因子を患部に注射するものです。2014年にヤンキースの田中将大投手が肘の故障に対して注射して手術を回避し、翌シーズンに見事カムバックしたことで一躍有名となりました。
当院では関節のスポーツ障害に対して、このPRP療法ではなく、培養した脂肪由来幹細胞の注入を行っています。PRPには生きた細胞は含まれていませんが、当院の脂肪由来幹細胞は生きた幹細胞です。注射後は患部に生着して成長因子を放出し、炎症を沈静化し、組織の修復を促進します。PRPは注射後に代謝されると効果が消失するのに対して、脂肪由来幹細胞は一度生着すると効果を発揮し続けると考えられます。
今回の患者さんはプロの競輪選手です。落車(転倒)による左肩と腰部を負傷し、足関節も痛めてしまいました。受傷後3ヶ月以上経過しているにもかかわらず、完全に痛みがとれません。ハンドルを強く引けない、押せない、左ペダルを強く踏めないなどの影響があり、乗車時のバランスを大きく崩しているそうです。やむなくレースに復帰しましたが、本来のパフォーマンスにはほど遠いようです。
左肩MRIでは腱板疎部および上腕二頭筋長頭に液体貯留を認めます。肩関節周囲炎の症状です。左足関節MRIでは直径 3 mmの遊離骨およびインピンジメント(腫れた組織が関節面に挟み込まれて痛む現象)を認めます。
レースに出場しながらの治療を希望されましたので、脂肪由来幹細胞による治療を行うこととしました。9月末に臍のよこから米粒大の脂肪を採取し、培養を開始しました。約3週間の培養後に一時凍結し、レースとトレーニングのスケジュールに合わせて細胞を解凍、11月始めに注射となりました。
スポーツドクター(寺尾医師)が診察をおこない、注射部位を確認、各部位に約4000万個の脂肪由来幹細胞を注入しました。
治療は5分で終了、術後リハビリテーションの説明を受けて帰宅となりました。
結果については後日ご報告したいと思いますが、早ければ1週間程度で痛みが軽減されることでしょう。