リンパ管浮腫は手足を中心としたいわゆる体の端っこである、末梢の問題です。このリンパ管、以前のコラムでも書きましたが(1. リンパと循環)、古くからリンパ管に関する解剖が研究されてきました。そのなかで、中枢神経、つまり脳にはリンパ管は「ない」と長年されてきたのですが、近年になって脳にもリンパ管は存在する、ってことがわかりました。
基礎研究の分野(動物やシャーレの中で主に行う研究)でリンパ管分野の第一人者と言われる、フィンランドのアリタロ先生のグループからの報告です。
さらに彼らは脳のリンパ管の働きを調べて、脳の高分子の代謝に関わっているということを発見しました。脳の代謝性の病気に対して、リンパ管で培われた治療や研究成果が応用できる可能性を示していて、これまでとは異なるアプローチの発展につながるかもしれません。私のようなリンパ管オタクのみならず、脳を専門とした先生方、患者さんたちに貢献できるかもしれず、ワクワクします。
内容をかいつまんで説明すると、以下のようになります。
・マウス(小さなネズミ)を用いた実験で研究した。
・脳にはリンパ管がないとされてきましたが、硬膜(脳を包む膜)には終分化(完全にリンパ管な状態)になったリンパ管が確認された。
・硬膜のリンパ管は脳の間質液を首の深いリンパ節へ送っている。
・リンパ管を作るのに必要な遺伝子がないマウス(特殊なノックアウトマウス)では硬膜にリンパ管が見られない。
・ノックアウトマウスで確認された、硬膜のリンパ管欠損状態では、脳に注射した高分子の代謝(クリアランス)が非常に遅い。またその高分子が首のリンパ節へ流れ出るのが遅い。
これらひとつひとつのデータが緻密な作業の上に成り立っていて、脱帽します。
患者さんを診察し治療する「臨床」と異なり、「基礎」はまさに医学の幹にあたる部分を掘り下げます。いろいろな領域で医学が発展して、これまでにわからなかったことがわかるようになり、できなかった治療ができるようになり、より良い生活が遅れるようになります。
また一つ、新しい世界への扉が開かれたように思いつつ、これを皆さんに届けることもまたわれわれ医療者の使命だなあと、感じているこの頃です。
ではまた!
(加藤基)
参考文献
A dural lymphatic vascular system that drains brain interstitial fluid and macromolecules.
Kali Alitalo先生
ヘルシンキ大学研究室HPより引用
https://www.helsinki.fi/en/researchgroups/translational-cancer-biology/people