「力足らざるものは中道にて廃す。今汝は画れり(いまなんじはかぎれり)」 論語 雍也
新たな地平線を開拓することこそ研究の醍醐味ですが、研究といえども「この分野はもー無理ちゃいますのん?」と思われていることもあります。現状の科学では技術的な限界で到達できないのか。いやいや、なかにはそれらを打ち抜いて目標を達成し、後から考えて自分たちが限界を作ってしまっていたんだとわかることもあります。
再生医療のなかでも細胞と足場素材を組み合わせた治療は今後期待される分野だ、と以前のコラム「再生医療の歴史」で申しました。負傷した臓器を『再生』させる取り組みとして、これまでも細胞をゲルに混ぜて投与する実験がなされてきたのですが、体内ではなかなかうまくいかず、限界があるとされてきました。
液体状の素材では体から追い出されるように出て行ってしまい定着しない。だから固形に近い素材に細胞を振りかけて“手術”で植えてくるのが限界。
また、細胞を使った3Dプリントという技術はあるけれども、これもシャーレの中の話で、体のなか(In-situ、インサイチュと呼びます)ではなかなかうまくいかない。
これらの限界突破を目指し、簡便に体に直接振りかけるようにして体内や体表で3Dプリント生着できないものか、と取り組み成功したという報告です。バイオプリント用のバイオインクの作成に成功した、と報告されています。
ロジックとしては微小ゲルと体にくっつき固形になりやすい2種類の液体を混ぜ合わせることで、細胞の生着と素材自体の固着に有利な条件を見出した、というものです。理屈はわかりますが、どうやってこの素材に辿り着いたのか、私にはよくわかりません。
実際にラットの頭蓋骨に穴を開けて、その場所に投与した場合、細胞を入れたバイオプリント群では何もしなかったものや細胞を入れなかったものに比べて骨形成がよく、その一因として投与した細胞はインクのなかで1週間以上生きていることがわかっています。
論文の中ではリュックサックの写真まで出ていて、この中にキット全て入ります。だから病院でなくてもすぐに治療ができます!とされていますが、、これはまだ先の話かも。でも夢があります。
アウトドアに絆創膏の代わりにキットを一つ持っていけば傷もとっても早く治る、なんて時代が近づいているのかもしれません。
「力が本当にない人は途中でやめてしまっている。限界を自分で決めてはいけませんよ。」限界を感じ弱音を吐いた弟子に対して、孔子が送った励ましの言葉が、時を超えて聞こえてくるようです。
ではまた!
(加藤基)
参考資料