「辞は達するのみ。」 論語 衛霊公
臓器同士のコミュニケーションについて、基礎的な研究をおこなう新たな土台がつくられた、というニュースを先立って本ブログに掲載しました。
再生医療において投与するのは細胞ですから、細胞同士のコミュニケーションも重要です。今回は細胞同士の情報伝達について紹介したいと思います。
細胞は一人のひと、臓器は大きな目的をもった会社、みたいにたとえられるかもしれません。会社の中ではたくさんのひとが目的をもって働きますが、おたがいにコミュニケーションをとる必要がある。ひとであれば言葉を使いますが、細胞同士ではメッセンジャーRNA(mRNA)やマイクロRNA(miRNA)、タンパク質、脂質などがその役割を担います。簡単なお手紙みたいなものでしょうか。それらを届けるのに、裸で渡すのはどこに行ったー?ということになりかねませんので、封筒やファイルに入れると思います。細胞ではこれが、細胞外小胞(Extracellular vesicles; EVs)とよばれます。細胞外小胞で近年注目されているのが、エキソソームですね。ほかにも、細胞外小胞には細胞膜からできる微小小胞(Microvesicles)や細胞が壊れる際に発生するアポトーシス小体(Apoptotic bodies)などとよばれるものもあります。
この細胞外小胞は、組織の修復などに大きな役割を担うと考えられており、眼や心臓、皮膚、筋肉などのさまざまな臓器での役割が報告されています。無細胞治療といって、細胞を必要としない分、自分のものでなくてもよいというメリットはあります。そのため将来的に小胞だけを抽出して製品化する、ということもありえるとは思いますが、抽出にはものすごく高価な機械で精密な抽出をしないといけないという限界もあり、ハードルが高い現状です。
逆に脂肪由来幹細胞を移植すると、これらの細胞が細胞外小胞を作ったうえで、投与された部位で分泌してくれることで治療されます。これをパラクライン作用と呼びますが、現状では細胞外小胞を介した最も有効な治療のひとつだと考えられています。重要な手紙だけを濃縮して抽出して遠く離れた土地に送る、よりは現場に即戦力の人を送り込んで、現地でいろんなメッセージを出してもらって問題解決してもらうというような状況でしょうか。
古くは論語に、「辞は達するのみ」 言葉は意味が伝わってナンボ、という記載があります。形式よりも内容がしっかり伝わるように、自分もこのブログでも注意していきたいと思うこの頃です。
ではまた!
(加藤基)
参考資料