春がやってきました。暖かい陽気に、気持ちは一新。
今日はリンパ浮腫の最前線 シリーズ第一弾として、脂肪由来幹細胞の基礎研究に関する話をします。研究・実験を通じて、様々なことがわかってきています。まさにその最前線は驚きに溢れています。
脂肪由来幹細胞?と思われるかた、私もそうでした。簡単に言いますと、お腹などの脂肪にある、だいたい何にでもなれてしまう 赤ちゃんのような細胞です。詳しくお知りになりたい方は、当院のHPをご参照ください。
本日紹介するのは、2009年 米国ハーバード大学からの報告です。Circulationという循環器系を代表するような一流の英文雑誌に掲載されています。この雑誌、ランキングなどをみるとだいたい医学系雑誌のトップ10くらいの常連です。
さて、内容ですが、ネズミ(マウス)のシッポの皮膚をくるっと一周切除すると、がんなどの手術後におきたリンパ浮腫に似た状態が作られます。そこに特殊な環境で培養した脂肪由来幹細胞を注射すると、なんと症状が軽快した、という素晴らしい研究成果です。
実際に浮腫が良くなった状態では、リンパ管造影検査を行うと、浮腫のもとになっている外科的な切除部位を超えて健常なところのリンパ管が造影されます。一方で治療を行わなかったネズミでは、造影剤が浮腫の部分に止まってしまって、体の中心側に流れませんでした。つまり、脂肪由来幹細胞の注射によって、リンパ機能が回復したことを示しています。
もちろん浮腫が軽快した部分について細かい評価も行っていて、良くなったネズミの治療を行った部分では、治療後にたくさんのリンパ管が新しく形成されていました。
こういうところ、研究・実験の良さだと思います。実際にどうなってんの?ほんまに治療がきいたんかいな?という質問にズバッと答えを出してくれています。
もともとリンパ管ができるのは血液内に循環している骨髄由来幹細胞(骨の中にある骨髄からできた、幹細胞ということです)がリンパ管の元になる、ということが知られていて、それを脂肪由来幹細胞(脂肪からできた幹細胞)でもできるんじゃないの?と考えて、研究してみたらうまくいったようです。
最新の発見から10年を経て、今では人に対しても応用されています。リンパ浮腫に対する治療として様々なものがありますが、注射でよくなることができれば、とてもいいと思いませんか?
研究って原因と結果を突き詰めるだけに、結果がシャープですよね。
わかったこと、できるようになったこと、が積み重なって便利な今の時代があるってことを改めて感じました。
ではまた!
(加藤基)
参考資料