前回、手洗いに関するコラムで手洗いをしすぎると手が荒れる、という話をしておりました。外科医の手洗い、と名付けて、その歴史に触れたわけですが、今回は手洗いが産んだ今では欠かせないものとある外科医の愛の物語を紹介したいと思います。
時は19世紀末、微生物学華やかなりし頃、医療現場でも手洗いの重要性が広く知れ渡ってきていました。しかし当時、診療はもちろんのこと、手術も素手で行っており、手洗い用の消毒薬も強力なもの(塩化水銀)を用いていたことから、皮膚炎を起こす医療者が次々と出ていたのです。アメリカの有名病院 ジョンズ・ホプキンス大学の手術室看護師であったキャロラインもその一人で、離職を考えるほどでした。
同僚のウィリアム・ハルステッドは天才外科医として名高く、さまざまな手術に名前を残した偉人の一人ですが、彼は彼女のために、この問題をなんとかできないかと一計を案じ、手先の感覚が残る、薄い医療用手袋を開発しました(と言ってもゴムの会社に作ってもらったようですが)。しかし二人は結婚、キャロラインは退職し、完成した手袋を彼女自身が使うことはなかったと言われています。
この時代から外科医と手術室看護師の恋愛、、あったんだなあと時代は変わっても似たものを感じます。
さてこのあとゴム手袋はラテックス製が出て、ディスポーザブルになり、現在に至るのですが、医療現場、、特に手術室では2枚重ねて手袋をつけることが推奨されることが増えてきました。針刺し事故、つまり注射針など患者さんに使ったものを医療者が間違って自分や他のスタッフに刺してしまうこと、が起きた場合に血液などを介した感染が起きにくくするためです。そんなおっちょこちょいな、、と思われるかもしれませんが、特に忙しい現場では(起こしてはならないのですが)起きてしまうことがあります。しかし2枚重ねるのは、手術中の外科医にとって指先の感覚が鈍くなるので、嫌がる先生もいます。私も顕微鏡下の細かい手術の時と、それ以外の時とで使い分けることがあります。
さて、この医療用手袋。今では、なくてはならないグッズになりました。医療現場を超えて様々な場面で目にすることも増えたように思います。
ちなみに、私はパッチアダムスの使い方が一番気に入っていて、たまに子供の前で披露しますが、思いのほか好評です。
ではまた!
(加藤基)
https://middle-edge.jp/articles/hZbPO
写真は上記ページより引用