ウイルス感染の話題で持ちきりの昨今ですが、みなさま体調はお変わりないでしょうか。
感染症に対して予防が大切!ということで、手洗い、うがいがインターネットでもたくさん出てくると思います。さて皆さん、正しい手洗い、していますか?
今日は私たち外科医が行う、プロの手洗いをお伝えしようと思います。
洗い方ですが、実はとっても簡単。ポイントは、親指・指の間・爪のスキマをしっかり洗うこと、です。
洗い残しチェックなど、手洗いの精度を見える化する方法が医療スタッフには行われます。歯医者さんなどで歯磨きした後にお薬でうがいすると、洗い残した部分が赤く残っている、、なんて経験のある方もいらっしゃると思います。その手洗い版です。職場が変わるごとに、若い先生では数年に1回程度研修を受けますが、みんないつも指摘される洗い残し、これが親指・指の間・爪のスキマです。手の甲とか手のひらは結構意識しなくてもしっかり洗えているものなんですよね。やっぱり歯磨きに似ているなあと思うのですが、習慣になってしまえば、きっと今日から実践できると思います。ぜひ活用してください。
さて、この手洗い、がんばりすぎると手荒れの原因となります。実は、アルコール消毒は石鹸で手洗いするよりも、手荒れのリスクが低いとWHO(世界保険機関)が明言しています。洗面所や石鹸などを設置することも不要なため、手が明らかに汚れている場合やトイレのあとなどを除いて、アルコールによる消毒が手洗いよりも推奨されています。商店から在庫がなくなるくらい、アルコールが一般化した今となっては、手洗いの重要性よりもこまめなアルコール消毒をしましょうという方が現実的になってきた気がします。
さて、外科医の手洗いですが、いつからされるようになったのでしょう。
医学の父とされるヒポクラテスは(BC460ごろ)創部の洗浄に一旦煮沸した水を使用していたそうですが、この頃まだ微生物という考え方がないので、手洗いは一般的ではなかったようです。1774年に塩素が発見されて以降、19世紀に入ってから消毒薬の開発と並行して、微生物学が発展しました。なかでも有名な話ですが、1847年以降にハンガリーのセンメルヴェイス医師が報告した「産褥熱の原因、概念および予防」。
当時お産後の産褥熱による死亡率が高く、原因もはっきりしていなかったのですが、クロール石灰(塩素消毒薬の元祖)を用いた手洗いを徹底したことで死亡率が12.3%から3.4%に低下した、というものです(ウィーン総合大学)。もちろん手洗いだけの問題ではなくて、「病理解剖が行われていた時期」に一致して死亡率が高かったようで、病理解剖した手を洗わずに産婦の診療にあたっていたとか。病理解剖を行わない病院での死亡率は変わりなかった、、ということのようですが。
衝撃の事実ですよね。消毒したら感染による死亡率が3分の1になる、と言われたら、、そりゃちゃんと消毒しなさいよ、先生。と思うでしょう。一方でこの説は当時すぐには受け入れられず、かなり痛烈な批判を浴びて発表した先生自身も精神を病んでしまったそうです。。
手洗いの話をしていると、私の好きな「ホ・ジュン」という医療系韓国ドラマでのワンシーンを思い出しました。漢方医として大作を完成させた歴史上実在した主人公(許浚)の一生を描いたドラマですが、師匠である医者が若い医師に印象的に語りかける場面です。「医師の手は、救いの手になることもあるが、逆に殺してしまうこともある」と言った内容だったと記憶しています。時代を考えると、彼は1600年ごろに生きた人ですので、細菌や医師の手による感染症の拡大など、学問として知っていたはずはないと思いますが、経験則なのでしょうか。。ホ・ジュンは韓国(ソウル市内)に記念館があります。一度だけ訪れたことがありますが、子供向けのフロアが充実していて、とても良い印象でした。
私も医師の端くれとして、学生の若い時分に「診察の前後で手洗い、消毒をしましょう」と教えられ、かれこれ20年近く実践してきています。奥深い歴史があったんだなあと思うと、自然と手洗いしたくなってきました。
ではまた!
(加藤基)
センメルヴェイス博士
参考になるHP
厚生労働省「正しい手の洗い方」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000593494.pdf
WHO手指衛生ガイドライン
https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2012/01/1201.pdf