乳がんや子宮がん、卵巣がんをはじめとするがんの治療においてリンパ節郭清を行ったり放射線治療を行った場合、リンパ液の流れが停滞し、リンパ管の変性が進み、リンパ浮腫が進行します。本来、手や足から体の中心へ走行しているリンパ管は、通常 “静脈角”と呼ばれる場所で、静脈(右鎖骨下静脈あるいは左鎖骨下静脈)に合流し、リンパ液は体液の大きな循環に戻っていきます。しかし、リンパ浮腫でリンパ管の変性が進むと、リンパ管の狭窄や閉塞を伴ってくると、リンパ液は静脈角までたどり着くことができず、静脈に合流することができません。そのため、さらにリンパ管内の圧力が高まり、リンパ管の変性がさらに進み、リンパ液の回収能力が低下し、浮腫が悪化するという悪循環が続くのです。
リンパ管静脈吻合術の大きな目的は、この悪循環を断ち切り、進行を抑えることにあります。上肢や下肢において、狭窄や閉塞が起きている部分より手前のダメージがより少ないリンパ管を選択し、これを静脈に吻合し“リンパ管から静脈へのバイパス”を作ってあげることで、静脈に合流できずに鬱滞していたリンパ流が解消され、浮腫の症状改善が期待できるのです。
この手術の特徴は、顕微鏡を用いての直径0.3~1.0mm程度の細い管を縫う、非常に繊細なもの(マイクロサージャリー)であり、局所麻酔下約2~3cmの小さな創が2~5カ所(重症度による)ですみ、出血もほとんどなく体の負担が少ないものになります。注意すべき点は、その効果が手術時のリンパ管の状態に依存するということです。変性が中等度以下で狭窄の程度が低いリンパ管が多く残っていれば手術の効果は高くなる一方、変性が進み狭窄・閉塞しているリンパ管が大多数を占めるような進行例では手術の効果が低くなります。そのため、リンパ浮腫の早期診断・早期治療が重要なのです。
今までは、この手術の効果に関するエビデンスはあまりなかったのですが、最近になって論文が増えてきました。以下はスイスの形成外科医のMario先生(吉松医師のお友達)がシステマティックレビューの形でまとめられた論文です。リンパ管静脈吻合の手術(と圧迫療法の併用)で、患肢の体積や蜂窩織炎の頻度が優位に減少したという複数の論文について考察されています。(辛川領)