先日の日本形成外科基礎学会で発表致しましたので、発表内容の要旨とスライドの一部をUpします。
培養細胞による毛髪再生の臨床応用についての内容です。
抄録
D. シンポジウム「毛・毛髪再生の基礎から臨床応用に向けて」
培養自己脂肪由来間葉系幹細胞を用いた脱毛症治療
毛包は間様系細胞である毛乳頭細胞と上皮系細胞である毛包ケラチノサイトなどから構成される臓器である。毛乳頭細胞と上皮系幹細胞を組み合わせて毛包を再構築するという臓器再生的アプローチが毛包再生の主たる方法として研究されているが、現段階では上皮系幹細胞を培養することが困難であり、未だ臨床応用には至っていない。
一方、これと異なるアプローチとして、脂肪由来幹細胞やその培養上清により脱毛症を治療する基礎研究、臨床試験がすでに国内外で実施されており、安全性と有効性が報告されつつある。これは臓器再生ではない、いわゆる細胞治療のアプローチである。臓器再生ではないため、毛包の無いところに新しく毛包を発生させることは期待できない。しかし、移植した幹細胞に由来する種々の成長因子が残存する毛乳頭や上皮系細胞に作用して、毛周期や周囲環境が変化すると考えられる。
当院は、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」のもと「毛髪の加齢性変化による減少に対しての自己脂肪由来間様系幹細胞を用いた局所注射療法」の再生医療等提供計画を特定認定再生医療等委員会に提出し、平成28年6月に第2種再生医療技術として承認された。培養細胞による毛髪再生を目的とした再生医療に対する承認としては、本邦で最初のケースとみられる。本治療では、当院の手術室で米粒大の脂肪を採取し、隣接するCPC(cell processing center)において脂肪由来間葉系幹細胞を培養し、頭皮注射用に調整して治療に用いる。幹細胞の採取、培養、投与などあらゆる局面で、適切なベリフィケーション、リスクマネージメント、クオリティーコントロールを要求されるため、提供サイドには基礎研究・臨床試験・薬事に関する深い知識と経験が必要である。当院における現況を報告するとともに、クリニックレベルで再生医療を行うために満たすべき要件について考察する。