再生医療はこの10年どう動いてきたか、この先10年でどう動くかを見定めることができれば、わたしたちにとって再生医療の恩恵はより大きいものとなるでしょう。様々な領域の再生医療を様々な観点から検証します。
10年といえば生命科学の進歩にとっては比較的長い時間です。
少し古い話ですが2014年、米国ミネソタ州議会においてとある新法が可決されました。以降10年間で、ミネソタ州内の再生医療関連の研究に対して5000万ドル(約60億円)を援助するという内容の法案です。[1] ミネソタ州といえば、全米トップクラスの総合病院であるメイヨークリニックが有名であり、再生医療関連の臨床試験も数多く実施されています。
通常、生命科学分野で小規模 の基礎研究であれば2-3年で300-500万円あれば形になりますが、比較的大きなグループで3-5年かけて行う横断的研究であれば通常1-3億円程度の研究資金が必要になります。ミネソタの例では、億円単位の研究を毎年3-4件の割合で助成することになるそうですが、10年の間に当然のことながら臨床研究まで到達する研究が出現することを想定しているようです。10年で60億円の税金をマウスの研究だけに使うというのは勿体無い話で、民意にも背くでしょう。また、ひとつの基礎研究から臨床研究まで実施する場合、最低でも5年で数億円はかかるので、全体の助成数に対して「当たる」割合を勘案すると10年60億円という資金援助は現実的な計画といえます。
実は、この規模の公的資金がひとつの州政府 によって再生医療分野に投下されるのは、米国にとっては目新しいことではありません。同規模の研究資金を援助する州がミネソタ州以外に15州あるそうです。ミネソタから遡ること10年前の2004年には、これをはるかに上回る規模の資金が、カリフォルニア州のES細胞研究を主眼とした再生医療研究および関連研究施設California Institute for Regenerative Medicine (CIRM)の設立のために投入され、注目されました。その額は10年間で30億ドル(当時約3240億円)。連邦政府ではなく州政府予算から捻出されています。[2] 米国で再生医療関連に投入された最初の大型事業とされています。その資金の大きさも驚きですが、これが住民投票によって決定されたという事実も興味深いところです。
このように米国ではこの10年の間に、再生医療に対する公的資金の注入が非常に活発となってきています。また、公的資金だけではなく患者団体などからの大型資金の援助も非常に多く、社会的支持も得ていることが想像されます。そして、10年、もしくはそれ以上の時を経て、その成果が続々と明らかになってきています。成果とは、もちろん臨床応用という成果です。
次回、その臨床応用に関してのup to dateをご紹介したいと思います。