「治水による治国」
前回はリンパが循環の一員であるということ、またその歴史的な背景についてお伝えしました。今回は体をめぐる液体について説明していきたいと思います。
みなさまご存知のごとく、循環器系の主役は血液です。主な働きとして栄養や酸素を細胞に届け、二酸化炭素や老廃物を運び出す、があります。ヒトの血液量は年齢や個人差はありますが、体重の約1/13と言われていますので、体重60kgの方では約4〜5kgあります。血液は液体ですので、血管の中を循環します。心臓から出発したあと、動脈、静脈を通って心臓に帰ってきます。それぞれに臓器別の周回コースがあって、脳天スカイ周回コース、腎臓廃棄物処理班周回コース、栄養吸収お任せ小腸周回コース、、、(勝手に名前つけました)があるわけです。それぞれに役割を持った五臓六腑(ごぞうろっぷ)を働かせるために必要な燃料(酸素と糖分など)と、老廃物(二酸化炭素やアンモニアなど)を出し入れする縁の下の力持ち、と言えるかもしれません。酸素の運び屋として赤血球は中でも有名な血液の登場人物ですが、出血などで減ってしまうと問題を起こします。よくドラマなどで怪我をして出血が多くなると、意識が遠のいていって、だんだんと視界が消えてしまう、、というシーンがありますが、これは脳への酸素供給量が減ってしまうことで脳みその活動が落ちてしまうことの一つの状態です。
さて血液の登場人物、他にもたくさんいます。主に免疫に携わる白血球、止血に関わる血小板、そして血液の液(水分)としての元となっている血漿です。白血球や血小板もそれぞれ特徴的なやつらなのでとても面白いところなのですが、そろそろ本題のリンパや液体成分に話題を戻しましょう。
リンパは循環ではありますが、通常一方向性です。リンパ管を通じて体の中を周回しません。どういうことかというと、行きは動脈から毛細血管を通じて細胞間質に出るのですが、帰りの静脈に乗りそびれた連中がリンパ管に回収されたあと、主に静脈角というところで血液に戻り、晴れて再び血管に戻ることができる、というわけです。
リンパ浮腫は一般的に手足に多い病気ですが、鼠径(そけい)や腋窩(えきか)と呼ばれる、足や腕の根元である、中継地点またはその少し体の中心側でリンパ管が閉塞することで起こります。体でいう大きな川に返ろうとしているところでせき止められたために、小さな川がたくさん氾濫を起こした状態とも言えます。根元を治療するのは深い部分であるためなかなか難しいので、違った方法がとられるわけです。それは支流である小さな川(手足のリンパ管)を近くを通る他の経路(静脈)に誘導してあげる、という方法です。リンパ管静脈吻合術と呼ばれるこの方法ですが、一般的になってきたのは実は最近のこと。細かい管を縫う技術が必要とされます。われわれの得意とする治療法の一つですが、最大の特徴として小さく浅いキズで治療できる、という点です。また流れ自体をよくする方法ですので、リンパ浮腫の症状が出てから数年以内の方をはじめ、比較的多くのリンパ浮腫の方が本治療の対象となります。
多くの研究者が発表した論文の集積結果(review article)では「何本以上つなげば良いか結論は出ていない。治療を行うことで本人の訴えは良くなる傾向にあり(50-100%)、太さとしても細くなる。」としています。
詳しくは下のリンクをご覧ください。(当院の手術説明ページに移動します。)
https://acell-clinic.com/lymph/operation.html
「治水による治国」 風林火山で有名な戦国武将の武田信玄は20年に渡る大事業で強固な堤防を築き、水流をコントロールしたことで被害がなくなり、それまで河川の氾濫に苦しんでいた住民の安寧な生活をもたらした、とされています。この信玄堤は450年経った現在でも治水の役割を果たしています。
(加藤基)
引用文献:
Lymphovenous bypass for the treatment of lymphedema.
J Surg Oncol. 2018;118(5):743-749.
Scaglioni, M. F., Fontein, D. B. Y., Arvanitakis, M., & Giovanoli, P.
Systematic review of lymphovenous anastomosis (LVA) for the treatment of lymphedema.
Microsurgery, 2017;37(8), 947–953.
信玄堤